夜中に大雪が降った日の次の朝というのは公共交通機関の乱れがつきものである。中には運休な列車もあるらしくて、それを使って登校してる人は必然的に休むしかなくなるのである。
自転車登校を路面凍結がひどくなるまでは続けていた私だったが、さすがにこれは無理だ。
今年に入って、朝に目覚めて早々わたしは一面真っ白な雪景色がどこまでも続くのを久しぶりに見たのである。
見た感じ、深さは15センチくらいであろうか。
近年稀に見ない大雪だとテレビのアナウンサーが告げていた。朝はどこの局をまわしても大雪の話だったので、この話題は夜まで続きそうだ。
まぁ、そうはいっても家から駅までは歩いて行けるし、幸か不幸かわたしの利用する電車は時間こそ遅れているものの運転していたので大人しく学校に行くことになった。
学校へ着いてみれば、来てる人もちらほらだろうと思いきや、ところがどっこい、意外と多いのでびっくりだ。
うちの教室にはシカマルくんを除くイケてないーずが集まっていた。たしかキバやナルトくんたちが利用してる電車は運休だったのではないかと尋ねたら、2人とも親御さんに送ってきてもらって学校に来たんだとか。チョウジくんは普通に歩いて来れるらしい。
電車が運休だったら堂々と休むつもりだったわたしとは大違いだ。
そんな風に談笑していると、教室のドアを開ける音とともに全身完全冬装備のシカマルくんが現れた。
「お!シカマルだってばよー!おーはよー!」
「おうおう、朝から元気だな、ナルト。はいおはよーさん。」
「相変わらずシケたツラしてんな!」
「ったく、キバは一言多いっつの。」
「シカマルおはよー!」
「はよ、チョウジ。朝からよくポテチ食えんなー。」
「シカマルくんおはよう!」
「おう、おはよ、藍夏。」
ふと、彼の首元をみれば、素肌が寒そうにあらわになっていた。
今更ながら、彼のマフラーは自分が持っているんだと気づく。そして、それは今日も私がしてきていた。
「そういえば、今日の1限目の体育何やるんだってばよ?」
「雪上サッカーとかよくね?」
「いいねー!でも、僕はキーパーで構えてるよ。」
「男子は若くていいねー。」
そんな話をしていれば、思い出したかのようにシカマルくんが口を開いた。
「あ、さっきそこでガイ先生とアスマが話してるの聞いたんだけどよぉ、今日の1限目は雪かきらしいぞ?」
「「「「なにーーーーーー??!!」」」」
そんなこんなで始まりました。
1限目。
体育と言う名の雪かき。
またの名を学校のパシリ。
防寒対策をして早速外に出てみれば、みんな意外と真面目に雪かきをやってるんですよね。ほんとびっくり。
でも、大事なのは何にだって例外がいるってことですね。
「いくぜーキバー!くらえっ!螺旋雪玉!」
「なっ?!ナルトてめーいきなりなにすんだよ!!??」
「ナルト!僕にも雪玉当たってるんだけど!」
雪かきをサボっての雪合戦はお約束ですね。しかも白熱。ナルトくんの雪玉はほんとに痛そうだ。いつもなら参加する気満々であるが今日はやめておこう。下にジャージは履いてるといっても、なんてたって制服だし。
そう思って少し離れたところから腰をおろして見ていれば、私の隣にだるそうな彼が来て座った。
「あれ?シカマルくんはやらないの?」
「あー?めんどくせぇからパス。」
「でたな。めんどくさがり。」
「てか、誰かさんが俺のマフラーまいてるし、さみぃから無理。」
「え、寒かったなら返したよー?それに、この前言ったときは受け取ってくれなかったじゃん!」
「分かってるって。どうせお前このマフラーなかったら、なくてもいいってつけないだろ?大体俺がお前に貸しといてやりたいだけなんだからいいんだよ。」
そう言って彼はいつものようにニコっと笑いかけた。思わずその笑顔にドキッと胸が高鳴る。貸しといてやりたい、ってなんだそれって呟いたがあえなくスルーされてしまった。
「ほんとに今日はさみぃなー。」
「そうだねー。」
「っていってる割にお前あんまり寒そうじゃねぇな?なんかあるのか?」
「え、やっぱりバレた?」
「やっぱりな。なぁに隠してんだ?ん?」
「実はですねー、ポケットに仕込んであるんですよー。ホッカイロくん。」
そう言ってコートのポケットに突っ込んでいた手に握ったホッカイロをチラッと見せると、彼はなにか悪巧みを考えているような笑みを浮かべていた。
それからポケットに冷たいものを感じたのはすぐ後のことだった。
「ちょっ冷た!!」
「うわっ!まじであったけー。ずりぃぞ藍夏!」
ポケットに入ってきたのはシカマルくんの手だった。そして、ポケットの中にあるわたしの手からホッカイロを奪い自らの手で握ったのだ。その間にも彼の手が私の手に触れて冷たさが伝わってくる。
「シカマルくん、手冷たすぎでしょ。」
「まぁな。雪かき頑張ったからな。」
「頑張ったら普通暖かくなるんじゃないの。」
「そんなんで暖かくなるわけあるか。」
「手が冷たい人はこころも冷たいのかな?」
「それは逆だろ?」
「にしてもほんとに冷たいね。」
「まぁな。
だから、藍夏があっためて。」
そう言うと彼はホッカイロを離して、わたしの手を握ってきたのだ。
突然のことに驚いてびっくりしてしまい彼の方を見たが、シカマルくんはなにもなかったかのようにわたしのコートの中で手を繋いだまま、ナルトくんたちがやっている雪合戦を見ていた。
「おーおー、ナルトのやつすげー玉投げんのな。」
今更雪合戦どころではなくなってしまった私だが、彼の手を拒む理由もないのでそのままコートの中で繋がれたままであった。
「そうだね。」
それしか返すことができなかったが、シカマルくんもそれ以上何も返すことはなかった。
無言の空間がこれほどまでに心地よいと感じさせてくれたのは何度目だろうか。
そして、1限目の終業のチャイムが鳴る頃には雪合戦をしていた彼らはすっかり半袖になっていた。
「さんきゅ、藍夏。あったまったぜ。」
そう言って彼はわたしの頭を撫でて、疲れきったナルトくんたちのもとへと歩いていった。
離されたその手が寂しいと告げた
(調子に乗りすぎたか?)
(なんて、考えても遅い)
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