次の日曜、わたしはシカマルくんとの約束を守り、見たい映画を決めて待ち合わせ場所へと愛車とともに向かった。
適当な駐輪場に自転車を停めて待ち合わせ場所である時計台の下へと向かえば、すでに彼はそこにいた。
時間を確認すれば時計は5分前を差していて、自分が遅れなかったことにホッとした。
「ごめん、待った?」
わたしが声をかければそれに気づいたシカマルくんがこちらの方を向いた。
彼の格好は細身のジーンズ、これはスキニーとかいうやつだっけかな。それにシンプルだがなかなかにセンスのいいアメカジTシャツを着ていた。
「いや、俺も今来たところだぜ。」
「よかった〜。」
わたしがそう答えれば、今度はシカマルくんがわたしの格好を眺めた風に見えた。
わたしはというと、バイカラーのカットソーにショートパンツといった、本当に普通のスタイルだ。そしてリュックは普段よりも小さいものにシフトチェンジしている。
「なに?なんか変?」
「いや、べつに変じゃねぇよ。……似合ってる。」
そう言ってシカマルくんが照れたようにそっぽを向いたので何と返していいのか分からなくなり、一言、ありがとう、と答えた。
「じゃあ、映画行こうぜ。なにがいいんだ?」
「あ、結構調べてきたんだよね。」
「お、なんだ?」
「『七人の忍』とかどうかな?アクション多彩で俳優さんとか女優さんとかもすごい豪華だって言ってたし、話も面白いらしいんだよね!」
わたしが意気込んでそう言えば、なぜだかはわからないがシカマルくんはククっと喉の奥で笑った。
「やっぱり、まずかった?」
アクション系を見たがる女はあまり感触が良くないと聞いたことがある。
「いや、そうじゃねぇよ。むしろ嬉しい、俺もそれ見たかった。」
「やった!ん?それじゃなんでさっき笑ったの?」
「俺、女って必然的に恋愛もんとか好きなんだと思ってたからよ、だからお前もそうなのかなって思ってたけど、やっぱり藍夏は藍夏だったな。」
「あぁ〜、あぁいう甘いものは嫌いじゃないけど、見てて楽しいのはアクション系かなぁ。」
「ん。そういうとこいいと思うぜ。」
シカマルくんが、いくぞと言って歩き出したので、一歩遅れて彼の後ろを歩いた。
映画館へ着くと家族連れやカップルなどが多くて席はほとんど埋まっていた。
シカマルくんが席をすばやく見つけてくれたおかげで良い位置に座ることができた。
映画の方もなかなかに面白くて、手に汗握る展開にひたすら胸をドキドキさせていた。
そんな様子のわたしに、映画が観終わった後で、シカマルくんはお前のこと見てる方がよっぽど面白かったかもな、なんていつものように笑うので、わたしもそれにつられて笑った。
「腹、空かねぇ?どっかで飯でも食おうぜ。」
「いいね!お肉食べよう!」
「ハンバーグの美味い店なら知ってるぜ?」
「いいじゃん!ハンバーグたべよー!」
「よーし、じゃあ行くぞー。」
「おうー!」
そして、二人で意気揚々とシカマルくんおすすめのハンバーグ屋さんに行ってたらふくたいらげて、お腹一杯になったところで彼は切り出した。
「この後どうする?なんか見たいものでもあるか?」
「うーん、これと言って特にはないかなぁ…。」
「じゃあ、俺の用事につきあってもらってもいいか?」
「うん、全然いいよ。」
わたしがそう答えるとシカマルくんはわかったと言って、ポケットから携帯を取り出して言った。
「わりぃ、一件電話かけさせてくれ。」
「どうぞどうぞ〜。」
手慣れたように彼はさっと電話をした。何やら、空いてるかだの、空いてないかだの、使ってもいいかなんて聞いてなんのことだかか分らなかった。
「よっし、今日はどこも入ってないらしいし、大丈夫みたいだから行けるぞ。」
「え?どこに行くの?」
「まぁ、それは行ってからのお楽しみで。」
「えぇ〜。」
「よし、じゃあ行こうぜ。」
「うん、じゃあ楽しみを楽しもうではないか。」
ちゃちゃっと会計を済ませて、シカマルくんは学校の裏の雑居ビルが立ち並ぶ中の一つの建物へと案内した。
どうやらそこにはテナントが入っておらず、使ってない建物のようであった。
「このなかだ。」
「え、ここって入っていいの?」
「さっきのは入るための電話だったんだ。」
「なるほどー。ではお邪魔します。」
シカマルくんに案内されながら入ったそこは防音が整っているスタジオのような場所だった。
「え!?ここってもしかしてスタジオ?」
「さすが勘のいい藍夏。正解。ここはミナトさんが管理してるスタジオの一つだぜ。」
なるほど。
ミナトさんならこの規模スタジオを保有していてもおかしくはない。
しかもかなり防音設備が整っているのだろう。
備え付けであるのかはわからないが、そこには何本かのギターやベースやキーボード、ドラムセットまでそろえてあった。
さっきシカマルくんが電話をかけた相手がミナトさんだったとは…。
シカマルくんは何やら奥の方に行ってギターとベースを取り出してきた。
「え、もしかしてなんか弾いてくれるの?」
「まぁ、少しは弾けるぜ?」
シカマルくんはそう言いながら音の調節をしているようだった。
弦を弾くその指から奏でられるメロディーに心を奪われるのは二回目だった。
そして、調音が終わったのシカマルくんはリクエストはないかと聞いてきた。
「えっと、AKGのソラニン、聴きたい。」
「え…?」
「あ、やっぱ、だめだった?」
「いや、ちがくて、リクエストなかったら丁度それ弾こうと思ってたからよ…。」
「同じこと考えてたんだね。」
わたしがそう言って笑えば、彼も照れたように少しだけ顔を赤らめて笑い返してくれた。
じゃあ弾くからなー、と言って指でギターの端を少し叩いてリズムをとりながら奏でてくれた。
彼を写真に収めたときに聴いた音がまた再び聴けるとは思わなかった。
そして優しくもどこか力強いその音にすっかりわたしは聴き惚れてしまっていた。
「本当はベースとかドラムとか入るともっと迫力あっていいんだけどな。」
弾き終わってからシカマルくんは呟いた。
「そうなんだ…。聴いてみたいかも…。」
「案外、すぐ聴けるんじゃねぇかな?」
「ん?それはどういう意味?」
「んー、まだ決まってねぇからあれだけど、まぁいいか。
俺とナルトとキバとチョウジでバンドやってんだよ。それで二年の時の文化祭のときにステージ発表に出ようって話なんだよ。」
「え?!なにそれすごい!?」
「まだ決まってねぇから内緒な。」
そう言って、いたずらっ子のように笑いながら口元にシーっと指をあてる仕草には胸にキュンとくるものがあった。
「うん、もちろん!そのときはわたし写真撮っといてあげるよ!」
「まじかよ、はずいな。」
「大丈夫!かっこよく撮ってあげるからさ!」
「おっけ、期待しとく。」
「まかされたぁ!」
わけもなくそのあとは二人で約束だということで指切りをした。
光って輝いて煌めいて。
(シカマルくんといるとなんか居心地がいいんだよね。)
(………お前それ今言うのかよ………。)
(…?)
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