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柊の花がこぼれる頃
日も大分短くなってきて、まだ17時であるというのにあたりは真っ暗になってきていた。

このころになると、みんなが帰り足を急ぐ。そして、わたしもその中の一人にすぎない。

そんなある日の昼休み、わたしはカカシ先生から呼び出しを受けた。

最初は何事かと思って焦ったが、ヤマトさんから、写真が特選に選ばれたことで副賞がカカシ先生の家に届いたとメールをもらったので、心はどこか安堵していた。

放課後、地学準備室に向かった。

「カカシ先生ー、失礼しますー。」

「順番が逆なんじゃないの?」

「言っちゃえば変わりませんよ!」

「なにその胃袋に入れば一緒みたいな理屈は?」

「あ、それイイですね!それより、色々と預かっていただきありがとうございました!取りに来ましたよ〜。」

「あら?知ってたの?ヤマトには内緒にしとけって言ったのに。」

「ヤマトさんはわたしの味方ですからね。」

「ハハ、言ってくれるねぇ〜。でも、男の友情も舐めたもんじゃないよ?」

「そういう美学はわかりかねます。」

「藍夏ちゃんの世界はレンズの向こう側だもんね。」

「いえ、写真だけでなく、音楽でも構成されてますよ。」

「へぇ、いいじゃないの。あ、そうだこれね、届いたやつ。」

「ありがとうございます。」

カカシ先生から受け取ったその包みを手にした時、ズシリという重さが伝わった。
副賞は一体何だったのかと考えては見るが、残念だが今回は全くチェックしてなかったのでその中身を知ることはなかった。

「それじゃ、暗くなるんでわたし帰りますね。」

「まだ、ゆっくりしてけばいいじゃない。俺、送ってくよ?」

「愛車は残して帰れませんから。それより、そんな喋り方してるのは疲れると思いますよ?じゃ、また明日、先生。」

これ以上長居をしていけないと感じ、颯爽と地学準備室をでた。

ちょっとした釘さしのおまけつきで。

いつもカカシ先生がわたしに対し、してやったりな感じで腹が立っていたので、今回ばかりは反撃してみた。

暗くなる前に帰ろう。
わたしの頭に真っ先に浮かんだのはそのことだけだった。


一方カカシは、彼女から投げられた棘を真っ向から受け止めていた。

「先生、ね。」

自分しかいない地学室でそう呟くと、まるで自分自身に返ってきたみたいで、変に悲しくなって、そんなになるまで彼女が好きなのだと痛感させられるのであった。

棘なんてまともに受けるものじゃない。
そうはわかっていても彼女からの言葉はやはり嬉しいものだ。
真っ向から受け止めるにきまってる。
それで傷つくのも悪くないんじゃないかっても思える。

「さぁて、俺もとっとと帰ろうかな。」

なんとなくだがカカシの足取りは重かった。

家について副賞をあけてみれば、中には映画のチケット(無料招待券)と写真立て、記念のバッジが入ってあった。

しかも、写真立てにはご丁寧に特選に選ばれた写真まで飾ってあった。
その写真を見てわたしはあることを思いついた。

そうだ。
この賞は元々、被写体になってくれたシカマルくんのおかげなのだ。
わたしが貰うなんてもったいないし恐れ多い。副賞に貰ったものはバッジ以外はシカマルくんにあげることに決めた。


そして、次の日の昼休み、第二体育館の自販機で張っていれば、案の定彼はそこに現れた。

シカマルくんは小銭を入れてピッと適当に選んだ。
その瞬間をねらってわたしは彼に声をかけた。

「シカマルくん!」

いきなり陰から姿が現れたわたしに彼はとても驚いた顔をした。

「ったく、びっくりさせんなよー。」

「ごめんごめん!そこまで驚くとは思ってなかったからさ。」

「で、俺になんか用があったんだろ?」

「あれ、分かっちゃった?」

「こんなところまで来るの、俺だってわかってるのはお前だけだからな。」

「あはは、そうだったね。あ、用があったのはね、実は渡したいものがあったからなんだ。これ、貰ってほしくて。」

そう言ってわたしはあの後包装をし直し、しっかりきれいにした副賞を彼に渡した。

「なんだこれ?開けていいのか?」

「いいよ。」

そう言うと、シカマルくんは包装のテープをさがし始めて、丁寧にその包装をほどいていった。

「あのね、実はまず最初に謝らなきゃならないことがあるんだよね。」

「あ?」

話しつつもシカマルくんの手のスピードはそのまま。
たしかこれって頭いい人の特徴だって聞いたことがある。

「うーんと、まことに申し訳ないんだけどね、わたしシカマルくんが写った写真をシカマルくんの許可なしに出しちゃったんだよね、コンクールに。それで、雑誌とかにも載っちゃって、その…、著作権無視してごめんなさい!!!」

そういうと同じタイミングでシカマルくんが包装をあけ、写真立てに入っていた写真を確認したみたいだった。

「てか、これ後姿だけじぇねぇか。」

「え?でも…。」

「別に気にしてねぇし、そのことはアスマから聞いてたぜ?」

「はい?」

「だから、俺は許可を出したから別に著作権とか問題ねぇってことだよ。」

「そう、だったんだ…。」

よく考えてみればわかることだった。
誰よりもプロであるヤマトさんが著作権というもっとも大事なものを気にしないはずがない。きっと、この特徴的な後ろ姿から誰かを特定し、その担任であるアスマ先生に許可をもらったというわけか。

縺れていたものが、一瞬にして解決した。

「あ、マジでよく撮れてんなこれ。てか、貰っていいのか?」

「あ、いいよいいよ!わたしネガ持ってるし、これは丁度いい恰好で丁度いい時にいたシカマルくんのおかげですから。」

「はは、まじかよ。ん?これは?」

「映画の無料招待券?期間中だったらいつでも使えるみたいだよ。」

わたしがそう答えると、シカマルくんは少し考えてからこういった。

「なぁ、藍夏、一緒に行かね?」

「へっ?」

「映画、行こうぜ?」

突然の彼の言葉にかたまってしまうわたし。

「おーい、聞こえてんのか?」

シカマルくんはわたしの目の前で手をぶんぶんとふってきた。

「聞こえてるよ。いや、でも、なんか悪いよ。」

わたしが申し訳なさそうにそう言えば、シカマルくんは間髪いれずに答えた。

「藍夏、俺の被写体使ったよな?」

「うっ!」

「俺の著作権、無視したよな?」

「ひっ!」

「ましてや、雑誌は全国誌…「わかった!ごめんなさい!行きたいです!めちゃくちゃ映画行きたいです!」」

シカマルくんの容赦ない攻撃に負けたわたしはシカマルくんの誘いを承諾することになった。

「じゃ、決定な。今度の日曜でいいな?見たい映画決めとけよ?」

「お、押忍。」

そう答えたわたしにシカマルくんはこの前みたいなとびっきりの笑顔を見せて去っていった。


ラムネの気泡は放たれた。


(無理矢理誘う形とか俺マジほんとヘタレ…)
(いや、でも、デートだし、うん。) prev / next