体育祭一日目はわたしにとって大失態として終わった。
カカシ先生にどうして医務室にいたのか尋ねれば、丁寧に細部まで説明してくれた。
わたしはどうやら相手チームのボールを顔面で(主に上部分で)レシーブしてしまったらしい。そしてその攻撃に耐えかねて倒れて、体育館の床に後頭部をぶつけて脳震とうを起こしたらしい。
そのあと救護係であるカカシ先生に医務室まで運ばれて、目が覚めたら一日目は終了したらしい。
なんとも間抜けな話である。
送るとカカシ先生に言われたが、私自身の愛車を学校にそのままにしておくわけにもいかないし、何よりもカカシ先生と二人っきりでいることに耐えられるわけもないので、さっさと医務室を飛び出してしまった。
そんなモヤモヤも一日寝ればすっかり忘れてしまうのがわたしのいいところで、今はこうして元気に体育祭二日目を精一杯楽しもうとしている。
学校に行けば、みんなに心配されまくる始末で、今世紀最大のモテ期を味わっていた。
「ちょっと、藍夏!アンタ大丈夫なの?!」
真っ先に心配してくれたのがサクラ。
「藍夏ちゃんが倒れた時はホントにびっくりしたよ…!」
今にも泣きそうになって声をかけてくれるヒナタ。
「本当にびっくりしたんだからね!」
言葉こそつよいが心配してくれてることがひしひしと伝わってくるのがいの。
こんな美女たちに囲まれました。
幸せです、はい。
「あはは〜!ちょっとドジっちゃったんだよね!でも大丈夫だよ!調子もバッチリだし、今日のリレーは頑張らせていただきます。」
笑ってごまかすわけではないが、とりあえず平気なところを見せて、復活したことを示す。
バレーはわたしがいなくなった後、1セットこそ取られたが、すぐに青組が取り返して勝利をおさめたらしい。
1日目までの競技の結果は
青組 75
紅組 95
の青組は20点のビハインドだ。
今日の男子の外競技と、中競技と、混合リレーで決着がつくことになる。
「さぁて、リレーまでわたしは応援を頑張ろうかな!」
わたしがそう言えば、呑気ねぇ、とサクラやいのに笑われた。
でも、そこもわたしの取り柄ですからね。
グラウンドを歩いていると、外では野球の試合に備えてウォーミングアップをしているナルトくんたちを見つけた。
声をかけると、ナルトくんたちも駆け寄ってきて、それはそれは心配をしてくれた。
「藍夏ちゃん!大丈夫だってばよ?」
相変わらず声が大きいね、ナルトくん。
「お前もケガとかするんだな!」
ハハハと笑ってるけど情け容赦ないなキバは。
「藍夏ちゃんが倒れた時は本当にびっくりしたよ!」
あ、チョウジくん今日もオーラがまろやか。
「…ったく、心配掛けやがって…。」
いつもより更に眉間にしわが寄っているシカマルくん。
「いやいや〜、ご心配かけてスイマセンね!でも、もうこんなに元気ですよ!リレーまでは応援を頑張るから、みんな勝ってね!」
そう言えば、おう!と言ってまた元気に練習に戻っていた。
みんなが戻っていく中で、シカマルくんだけは別な行動を起こした。
なんと私の手を取って、裏庭の方へと連れて行ったのだ。
「ちょ、シカマルくん!?」
「…。」
連れられてきた裏庭には誰も人がいなくて、二人っきりの空間となる。
「あの、怒ってる…?」
「…別に、怒ってねぇよ…。」
「でも、眉間の皺…すごいよ?」
「元からだよ!」
そう言ってシカマルくんが振り返ったので、やっと向き合う形になった。
「あ、やっとこっち見た。」
「は?」
「いや、さっきからシカマル君だけは目を合わせてくれなかったからさ。」
「…そんなことまで気づいてんのかよ。」
「洞察力は人よりいいらしいからね。それよりも昨日は心配かけちゃってごめんね。」
「別にそんなことは良いんだよ。ただ…。」
「ただ…?」
言い淀んだシカマルくんから次の言葉が出てくるのを待ってみたが、その次の言葉は出てこなかった。
「やっぱ、いい!お前が無事だったらそれでいいんだよ!」
「えぇ〜!?」
「わかったら、早く戻って応援でもスタンバっておけ!俺は便所行ったら戻っからよ!」
シカマルくんからの言葉は案外軽かった。
もう少し何か言いたいことでもあったのではないか…。
それよりも、昨日の二人三脚も然り、シカマルくんには色々と心配かけちゃってるなぁ…。
それに報いるためにも精一杯応援するか。
リレーでも挽回して見せよう。
わたしは意気込んで、サクラ達がいるところに合流した。
…*…*…*…
ナルト率いる青組野球部隊とサスケ率いる野球部隊の対決となった。
サクラやいのはどっちを応援すればいいのと困惑を見せている。
いやいや、自分のチームを応援しましょうよ、二人とも。
試合は五分五分で打っては取られたり、打ち返されたり取ったりを繰り返した。
ナルトくんも最初こそは剛速球を繰り出していたが、後半戦ではスタミナが足りなくなってきていた。
7回裏でこちらの攻撃に移るときにベンチに戻ってきたナルトくんたちは暑さのせいもあって更にぐったりしていた。
あ、こんなときにはいい処方箋があるじゃないか!
名案を思いついた私は、その処方箋を彼らの元へ連れてきた。
「ほら、お願いしますよ!!」
「ちょっと…藍夏!
…はぁ。しょうがないわね。ナルトぉおおおおお!!!なにへなちょこな投球してんのよ!あんたの本気はあんなもんじゃないでしょ?!頑張りなさい!あんたならできるわよ!」
「サクラちゃん?!」
「チョウジ!!あんたさっきの盗塁くらい刺せたでしょ!?アレくらいお手のもんじゃないの?ナルトをしっかりリードしてやんなさいよ!!」
「いの…!」
「…あの、キバくん、きちんと守備もしててすごいから、このまま頑張ってね…!!」
「ヒナタ!!」
ナルトにはサクラ。チョウジくんにはいの。キバにはヒナタを処方してあげれば、高確率で元気を取り戻すと思った私の考えは見事に当たった。
こうなったとき、シカマルくんには申し訳ないが彼にはわたしからの檄を飛ばそう。
「シカマルくん!!めんどくせぇって言いながらも、ちゃんと守っててえらいぞ!でも打撃下手くそだからもう少し頑張れ!!!」
「ったく、一言余計だっつーの!」
そういいながらも口元に笑みを浮かべていて、どうやらやる気を取り戻してくれたらしい。
元気になったナルトたちがまた試合に戻って行った。
そのままノリにのって青組はなんとサスケ率いる赤組相手に勝利をおさめた。
試合後にはナルトくんやキバやチョウジくんに目一杯感謝されたが、サクラもいのもヒナタも彼女自身でやったことだよ、と答えて敢えてネタばらしをすることもしなかった。
試合後、すぐにシカマルくんには下手くそといったことを、最初に謝っておいた。
「俺をムキにさせようとしたんだろ?わかってるってーの。」
「いやはや、それにしても下手くそはないかなぁって…。」
「別にお前に言われるならいいぜ。」
「え…、それってもしかして…!」
「あ!ちげぇ、そういう意味じゃ…!」
みるみる顔が赤く染まっていくシカマルくんをみて、わたしはあることに気がついた。
「分かったよシカマルくん。確かに周りにばれたら嫌だよね…。
君が実はドMだってことは。
わたし口は固いから大丈夫だからね。」
「なっ!!!!違う!断じて違う!」
人には誰にも知られたくないことってあるよね。うんうんわかるわ〜。自分の性癖とかばらされるなんてとんでもないよね。
ってあれ、違うの?あれれ?
「つーか、お前の洞察力はお前自身には働かないんだな。」
「え?どゆこと?」
「頭いいんだろ?自分で考えられるだろう。」
シカマルくんはそういうと勝ち誇ったように笑った。
「いや、分かんないし。」
「じゃあ、そのうち教えてやるよ。」
「じゃあそれまで待ってますわ!」
「おう!俺汗かいたからシャツ替えに戻るわ。じゃあな。」
去っていくシカマルくんを見送っていると、彼は突然振り返ってわたしに向かっていった。
「藍夏!応援サンキュな。元気出たわ。」
とびっきりの笑顔に思わず胸が高鳴ったのは残暑の太陽のせいなのか。それとも別の何かなのかは分からなかった。
…*…*…*…
野球は勝ったが中の競技種目は負けてしまった。
けれども、野球の方が点数は高くて、なんとか赤組に追い付いて同点のままリレーを迎えることになった。
時間までにウォーミングアップを済ませたわたしは、リレーで走るメンバーを全員初めて知ることになった。
メンバーは、ナルトくん、キバ、シカマルくん、デイちゃん、サソリ先輩、テンテン先輩、ネジ先輩、そしてわたしだった。
わ、なにこれすごいメンバー揃ってるじゃないですか。むしろわたし要らなくないですかね。
対する赤組は、シノくん、リーさん、イタチ先輩、小南先輩、長門先輩、鬼鮫先輩、飛段先輩、そして、サスケだった。
こちらもなんと豪華なメンバーで。
わたし完全に場違いなんじゃないですかね。
そうは言っても繰り広げられた戦いには結末を迎えるまでは止まることはないので、ここは突っ切るしかない。そうだ。頑張るんだわたし。
幸いなことにわたしの走順は二番目だったのでプレッシャーは薄い。
前にはキバ。後ろにはシカマルくん。
アンカーを務めるのはやはりネジ先輩だった。
リレーも始まってしまえばその場の空気に合わせてどんどんと進んでいく。
わたしの順番もあっという間に回ってきて、それはもう全全全全全力疾走で走り、キバが一位のまま繋いだバトンをそのままシカマルくんに繋いだ。シカマルくんは更に差を広げてバトンをまわし、そのままアンカーのネジ先輩まで渡り、ネジ先輩も一位でフィニッシュをして、青組は優勝を勝ち取ったのだった。
青組優勝が決まった途端、周りから人が一斉に集まってきて、勝利の喜びをかみしめることになった。
顔面でレシーブした甲斐もあったし、全力で走った甲斐もあった。
他にも借り物にされたり、二人三脚したり…。
わたし頑張ったかもしれない。
今世紀限りの輝きかもしれない。
そんなことを思っていれば、あっという間に閉会式が始まり、結果発表が行われ、崩れる先生と、喜びで舞い上がる先生たちの姿があった。
どうやら、賭けに負けた先生方は今日の打ち上げで奢ることになっているらしい。
お疲れ様です。合掌。
最後はやはり理事長の綱手様がこの体育祭をしめた。
「両チーム、各々よく頑張った。これにて体育祭を閉じる!!!そして、一つだけ覚えておけ!!!!!一度した約束は必ずだからな!!!!!!」
その言葉で賭けをしていた先生たちは更にうなだれた様子を見せた。
なにはともあれ、青組が優勝できてよかった。
深く淡く染みてゆく。
(青組の打ち上げは焼き肉だってばよ〜!)
(胃もたれしそう…。)
(ノリがわるいってばよ!藍夏!)
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