八月も終わって九月に入ったというのに一向に弱まることを知らない太陽が相変わらずギラギラと輝いていたりする。
なんてはた迷惑な太陽だ、と思わず悪態をついてしまうのも、すこしは許してもらいたい。
そして、そして、ついにやって参りました!
みんな楽しみ体育祭!!!!
二日にわたって行われる体育祭は、普通の行事よりもさらに熱気で満ち溢れている。その張り切りようが若干怖いくらいである。
そして、先生たちの目のぎらつきようをみると、絶対賭けているななんてことが分かる。
開会式での理事長の綱手様の挨拶では、
「お前らああああああ!!!いいか!?全身全霊で競技を行えよ?賄賂の受け取りは禁止だからな!受け取った時点で反則だ!!!!では健闘を祈るぞ!」
…やっぱり他の先生方賭けてますね…。
「やぁやぁ、藍夏ちゃん、精一杯青組勝利に貢献してよね。」
「カカシ先生!?やっぱり賭けてるんですね?」
「いやいや、俺は興味ないよ。」
「またまたぁ〜!」
アハハと笑って誤魔化すカカシ先生に呆れながらも彼の格好にふと目がいった。
「あれ、カカシ先生今日も白衣なんですか?他の先生たちはジャージですよね?」
「ん〜?俺はね、今日は救護係だからね。そのためかな。」
「なるほど。」
「ケガしたら俺が助けてあげるヨ。」
カカシ先生はそう言って、オマケにウインクまでしてテントの方へと行った。
一日目は女子の体育館競技など、借り物競走や、二人三脚など校庭とおおっぴらと使った競技が行われる。午前中に行われるのが校庭を使った競技である。
青組の応援席へと向かえば、なんと、白の長ランを着たナルトくんとキバがいた。
「ナルトくん!キバ!どうしたの?!」
「いやぁ〜、昨日たまたまネジ先輩に会っちまってよ〜。俺、今日は暇だって言ったら、キバと一緒に一日応援団長にやってくれて頼まれちまって。応援団長になっちまったんだってばよ〜。」
「ネジ先輩の頼みじゃ断れねぇしな。」
それを聞いていたヒナタが申し訳なさそうに言った。
「あ、あの、急にネジ兄さんがごめんね…。」
「ヒナタが謝ることじゃねぇよ。大体俺達だって好きでやってんだからな。な、分かったか?」
そう言ってキバがヒナタの頭を撫でる。
恥ずかしそうにしながらも嬉しそうなヒナタにこちらまで胸がときめいてしまう。まったくキバめ。ヒナタ泣かせたら許さないんだからな。
一方のナルトくんの方を見れば、応援しに来たサクラの元へと走っていき、恰好を自慢をしている。
「サクラちゃんサクラちゃん!俺の今日の格好どうだってばよ?」
一瞬驚いたサクラだったが、照れてそっぽを向いていつものようにふるまって答えた。
「べ、別に変じゃないわよ!ふ、普通だと思うわよ!」
「そうか〜?でも、変だって言われるよりよっぽどいいってばよ。」
サクラのツンデレ発言にも満面の笑みを浮かべるナルトくんは、いつにもまして笑顔が似合う。ホントに素敵だなぁ。
後から着いてきたいのもチョウジくんと一緒に歩いていてこれまた楽しそうである。
あれ、これはもしかしてもしかする感じですかね。
そう思っていれば後ろからシカマルくんが私に声をかけてきた。
「よ!藍夏!」
「シカマルくん!」
「調子はどうだ?」
「ばっちりだよ!二人三脚の練習も頑張ったしね!絶対勝とうね!」
「おう!」
そう言って二人でハイタッチをした。
その時場内にアナウンスが流れた。
『…次の競技は借り物競走になります。出場選手は入場門にお集まりください。』
入場門を見やれば、サソリ先輩とデイちゃんの姿が見えた。
ので、駆け寄っていくと、向こうも気づいてくれて、手を振ってくれて居場所をはっきりさせてくれた。
「サソリ先輩とデイちゃん、次出るんですか?」
「そうだぞ、うん。絶対勝つから見てろよ?」
「馬鹿だなデイダラ。借り物競走なんだからすべては運だ。」
「運なのか?うん?」
「…デイちゃんもういいから、早く行ってきなよ。」
引き笑いでありながらも送り出せば、絶対最前列にいろよ〜、との声が返ってきた。
最初に走るのはデイちゃんだった。
スタートを知らせるピストルが鳴って、選手が一斉にスタートし障害物を何個か越えて、カードへとたどり着く。
このカードにたどり着く段階ですでにデイちゃんは一位だった。
応援席で、よくよく周りを見ると意外にもデイちゃんは他の女子の先輩方やわたしと同じ学年の女の子たちに人気で、あちらこちらから、
「デイダラく〜ん!」
「デイダラ先輩頑張って〜!」
などの黄色い声が聞こえる。
見た目は不良でもデイちゃんはイケメンだからな。あたりまえの結果だろう。
その周りの声に圧倒されたり、女の子たちの波にに飲まれたりして、せっかく最前列にいたのにいつの間にか後ろの方へと押し流されてしまっていた。
カードを引いて、そこに書いてあったものをさがしているデイちゃんがこちらへと向かって来るのが見えた。(髷のおかげで)
そして、何をさがしているのかと思えば、彼はいきなりわたしの名前を呼ぶではないか。
「藍夏!藍夏!どこにいるんだよ?うん。」
「こ、ここです!」
と後ろにいながらも必死に手を挙げると、それに気付いたデイちゃんがその手を掴んで、わたしを列から引きずりださせた。
「おい、走るぞ?本気だからな?うん。」
「ええええええええ!!??」
半ば引っ張られる形でなんとかデイちゃんと速さを合わせて走る。
「だーかーら、前にいろって言ったんだ、うん。」
デイちゃんの足が速かったおかげでなんとか一位のままゴールをすることができた。
しかし、デイちゃんの速さに合わせたわたしの息はすっかりと上がってしまった。
「まったく、日頃の鍛えが足りねぇンだ、うん。」
「わたしが鍛える意味が分かりません!!はぁはぁ。ところで、カード何だったんですか?」
そう聞くとデイちゃんは一位と書かれた旗をくるくる回しながら、ん、と言って見せてくれた。
カードには
『幼馴染み』
と一つ書いてあった。
あれ、これって人も借り物になるの?他はどうなんだろうと周りを見ると大玉や優勝旗やら、理事長やら色々と借り出されていた。
なんでもアリがこの借り物競走らしい。
ありがとな、と言って、デイちゃんは記録係の方へと走っていった。
一方わたしは、最後に走るサソリ先輩の応援をしようと応援席の方へとまた向かう。案の定、他の応援している人たちがはけることもなく前列にいるので、前にはいけないなーなんて思っていれば、サクラやいのが気を利かせてくれて、前列の方で私の分をあけて待っててくれた。
デイちゃんと並ぶくらいにサソリ先輩も女子の皆さんに人気はある。イケメンだから。黄色い声がさらに強くなってくるのがわかった。あ、もしかしてサソリ先輩の方が人気あるのかな…。
今度こそ先輩をちゃんと応援するんだ、そう意気込んでいると、最終組のサソリ先輩たちがスタートした。
デイちゃんと同じく、運動神経のいいサソリ先輩は難なく一位のままで、借り物の指示が書かれているカードを手にする。
カードを見て辺りを見渡すサソリ先輩。
「サソリ先輩!頑張って!」
と、他の女の子たちの声に混じって、わたしも負けじと声をかける。
その声を聞きつけたサソリ先輩が、私の元へと走ってきた。
あれ?もしかして?またですか?
「藍夏!!来い!!」
そう言ってサソリ先輩が手を伸ばしてくるので、迷わずわたしはその手を掴んだ。
後ろから「またあの子?!」なんて、声も聞こえたが、サソリ先輩が一位になるためならそんなの関係ない。
何と言っても青組勝利が第一優先事項だ。
サソリ先輩も足が速いのでわたしは追いつくので精一杯だった。
二回目なのでコースもわかり、デイちゃんのときよりもスムーズにゴールすることができた。
もちろん結果は一位。
「や、やりましたね!サソリ先輩、ぜぇはぁ。」
「あたりまえだ。それよりもお前は体力無さすぎだろ、鍛えろ。」
「それ、デイちゃんにも言われました。ところで、デイちゃんのカードは幼馴染みでしたけど、先輩のカードは?」
「言わねぇ。」
「は?!」
「だから、言わねぇっていってんだろ。」
「え、納得いきませんけど!」
「知らなくていい。特にお前は。」
サソリ先輩はこれ以上聞くなと言わんばかりの顔で、一位の旗をもらって、記録係の方へと向かった。
気にはなるが、自分も次の競技である二人三脚にでなければならない。
アナウンスももうすぐかかる頃だろう。
急ごう。そう思って入場門へと向かった。
「言えるわけあるか。」
そう呟いてサソリはポケットでくしゃくしゃに丸めた指示が書いてあるカードを誰もいないのを確認してまた開いた。
「『気になる人』。」
誰もいないのを確認したはずではあるが、後ろに立っていた者がサソリのカードの中身を確認していた。
「なっ!てめー!デイダラ!!!」
「旦那、オイラには隠さなくていいぞ。大体旦那分かりやすすぎるだろ。うん。」
「うっせ!つーか、言うんじゃねぇぞ。ぜってー!」
「当たり前だ、うん。でも、あいつは大変だぞ?鈍いからな、うん。あの鈍さはオイラたち、幼馴染みが始まった頃からだしな。」
「大体、その幼馴染みってやつがうぜー。ほんとにうぜー。なんだよその特別感。」
「幼馴染みはずっと、幼馴染みだぞ、うん。」
「それはゴメンだ。」
サソリはそのカードを前に何が書いてあったかわからない程度の細かさにちぎって、突然吹いた風に乗せて高い高い空へと散らせた。
「…今はまだ言わねぇよ。」
アナウンスも鳴り、入場門へとつくとそこには既にシカマルくんがいた。
そして、人数が集結したらしく、一斉に入場となった。
「ごめんね、待ってた?」
「ん?さっき来たとこだったぜ。それよりさっきもお前走ってたし、大丈夫か?」
入場中にもかかわらずこのテンションでいられるのは相手がシカマルくんであるからだろう。普通ならば緊張でそれどころではないはずだ。
「あは?見てた?いいウォーミングアップになったかな?」
「なら、いいな。よし、これ、繋ぐぞー。」
幸運か不運かはわからないが、わたしとシカマルくんは最初の組にいれられていた。
そして、動くなよーといいながらシカマルくんが器用に私の足とシカマルくんの足をたすきで結ぶ。
「練習したけど、流石に近いね。」
「まぁ、いいだろ?」
何回も練習はした。
しかし、本番と練習とでまるで違う。しかも、気のせいであるかもしれないがなんかいつもより密着している気がする。
あーもう、心臓がうるさい。
静まれ〜静まれ〜静まりたまえ〜。
「うん、シカマルくんとなら合いそうだしね。よし、勝とう!」
緊張を隠すためにすこしだけ大きい声を出す。
「おう!」
そして、また、2人でハイタッチをした。
結果から言えば、わたしたちは二位だった。
あと一組を抜けば勝てるところだったのだが、その組が転倒してしまい、私がまきぞえになった。ケガこそしなかったが、その隙に後ろから来てたネジ先輩とテンテン先輩のペアに抜かれたのだ。
シカマルくんは無事だったので、その彼に起こされてなんとかゴール。
先輩たちもわたしたちもどちらも青組であるから、点数が入ることには変わらないが、なんとも残念である。
ゴール直後にシカマルくんがものすごく心配してくれた。
「お前、あの時足とか捻ってね?大丈夫か?」
「ぜんっぜん!大丈夫だよ、ほら!」
足の無事を見せると安心したかのようにホッと息を吐いたように見えた。
そこまで心配されるほどじゃないんだけどなぁ。わたし頑丈だし。
「つーかさ、お前緊張しすぎだろ?」
「あれ?もしかして心臓の音ばれてた?」
「あたりまえだっつーの。」
「あはは〜、ごめんね。なんかシカマルくんにも緊張うつらせたりしちゃった?」
「いや、そんなことはねーけどよ…。」
なんだか物言いたげそうな顔をするシカマルくん。
それが分からずすっかりとハテナマークを浮かべるわたし。
「…っ、とりあえずお前がケガしなくてよかった!!」
そう言ってシカマルくんはわたしの頭を撫でてその場を去っていった。
「…期待、しちまうじゃねぇか、ばーか。」
シカマルは木陰に凭れて、一人空に呟いた。
…*…*…*…
ひと通り午前の競技が終了して午後の競技とうつった。
午後のメインは女子のバレーやドッジボールだ。
体育館のギャラリーで男子は観戦すると言っていた。
サクラは気合を入れて、いつもは下ろしている髪をポニーテールにしていて、いのも今お団子にしていて、なんともかわいらしく、気合の入り方もすごい。
わたしはハーフアップで少しだけやる気を見せている。
コートに立てば、ナルトくんやキバやチョウジくんの声援が一心に聞こえてくる。
「サクラちゃーん!頑張ってくれってばよ〜!」
そういうナルトにサクラは少し照れながら軽く手を挙げて見せる。
「いのー!頑張ってね!」
そうほほ笑むチョウジくんにはいのだけでなく、わたしも癒されてしまう。
「藍夏ちゃん!頑張ってね!」
あぁ、ヒナタ。あなたのおかげでわたしは100人力です。
とりあえず、ヒナタの隣りで鼻の下のばしてるキバをなぐりてぇ。
さてさて、わたしも青組バレーボールチームの一員として精一杯頑張りますよ。
試合は最初こそ一進一退を繰り返したが、途中からわたしが相手の弱点を見抜き、それをいのやサクラに伝え、そこからはこちらの圧倒的戦力であれよあれよという間にあっさりと2セットを先取した。
「よし、この調子で次のセットもとるわよ。」
スポーツドリンクを飲みながらサクラが言った。
「もちろん。さっさと勝っちゃいましょう。」
流れる汗も輝いているいのが答えた。
「「頑張るわよ!藍夏!!」」
そんな二人に思いっきり背中を叩かれて、わたしは飲んでたジュースを吹きかける。
二人に汚いと言われながらも、誰のせいだなんて言えないし、さっさと大人しくコートに立つことにした。
3セット目が始まった。相変わらずこちらが優勢ではあるが、向こうも弱点を改善してきていたので、なかなか思うように点数は入らない。
そして、何回かラリーを繰り返して、その後だった。
自分としては気を抜いたなんて毛頭なかった。
なかったけれども、それは起きた。
それはつまり、気を抜いてしまっていたということになるのだろう。
あぁ、自分のふがいなさに泣けてくる。
「藍夏?!」
思いっきり頭に当たった衝撃の後に、サクラといのに呼ばれたのを最後にわたしは気を失ってコートに倒れた。
…*…*…*…
カカシはコートに倒れた彼女をいち早く見つけ、救護係ですから、と心配する周りの人々に一言告げて彼女を抱え保健室へと向かった。
保険医にによると、彼女はボールが当たった衝撃で床に倒れ、それによって更に脳震盪を起こしてしまったらしい。
状況からしてそこまでひどくはないらしく、しばらくすれば目は覚めるそうだ。だから、今は寝かせておけと。
それだけ告げて、またけが人がでたらしい体育館へ忙しく移動していった。
……………よかった。
本当によかった。
藍夏の眠るベッドの脇にあるパイプイスに腰かけ、カカシは大きくため息を零した。
「本当にお前はどれだけ俺を心配させれば済むの?」
眠っている藍夏にそんなこと言ったってしょうがない。
しょうがないけど、少しは自分の気苦労も知ってほしい。
カカシはそう思って呟いた。
「お前はいつもそうだよ。勝手に入ってきて勝手に俺の想いまで奪っちゃって。」
そうだよ、何で藍夏なんだろうね。
何で俺は藍夏のことをこんなにも好きになっちゃったんだろう。
いつも考えるけどやっぱりわかんないんだよな。
ところで俺たちいくつ離れてんのかね。たしか藍夏が16だから…?
いや……考えるのも馬鹿らしいな。
「大体、デイダラとサソリと手ぇ繋いでゴールってあれはわかっててやってたの?シカマルとの距離も近いし。ほんと、俺のこと壊したいの?」
そっと藍夏の髪に触れる。
柔らかくて、ふわりと甘い香りが漂う。
淡く甘く儚く香るそれに誘われたのか、カカシはしていたマスクを口からずらして、いまだ目覚める様子のない彼女の瞼にそっと口づける。
そしてそのまま彼女を抱きしめた。
「だからさ、最後まで付き合ってもらうよ、藍夏。」
眠り姫は夢を見たままで。
(…あれ?ここは?)
(医務室だよ。)
(医務室!?って、え、カカシ先生なにやってんですか!?)
(心配させたお仕置き。)
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