宇宙でいうところの時間の概念てのは、ちっぽけな人型生命体の寿命なんざあっという間に彼方へ流してしまう程には、巨大な単位でもってそこに存在している。惑星を渡り歩く空の海賊たる俺たちに、年月の意識など無いに等しい。とはいえ商業を生業とする者として、お偉いさんとの会合の日取りばかり間違うわけにはいくまい。毎日を遜って売って買って盗って荒らして闘って。そうこうしている間に自分の数え歳なんてものは忘れてしまった。縦社会の世の中じゃ、そんな基準さえ必要もないのはとうに知れたことだった。
今日も今日とておそらくは二十も離れているだろう若造の尻拭い、尻拭い。阿呆な提督には、うまいこと諂っておけばいい。ともすれば、馬鹿も馬鹿なりにこちらの口車に乗ってくれれば良いものを。
「つまらなかった。つまらなかった。骨のないやつばかり集まって」
「だから来るなと言ったろう。人の話を聞かないお前さんが悪い」
「生き急いで向かってくる奴は嫌いじゃないのさ。もちろん強い方がいいけれど。…今日のは物足りなさ過ぎた。上司を萎えさせといて戦ばかりはもうお仕舞い、なんてそれでいいのかい?阿伏兎」
「そりゃどういう意味かね」
あえて聞いてやるのだ。
「そのままの意味だよ」
応えるなんざ一言も言ってない。
意味のない応酬、毎度のことさ。付けては壊されるの繰り返しで、諦めた片腕の先を掻く。食って寝て、闘って闘って、馬鹿の一辺倒。その歳で、その生き様は、血を浴びた手足、貼付けた笑顔が物語る俺の上司。巻き込まれてたまるかってんだ。
「ハイハイ、仕事する気がねぇならメシ、行きましょう」
ほらまた、駄々をこねるような表情。本気でやっているのだとしたら医者にでもかかった方が良い。
「よほど萎えるだけって言いたいんだろ。わかったよ」
分かった、解った、いつもの文句はいつかへの持ち越しだ。俺は、臭ぇ戦場で獣に死肉を喰われても、ゴミ溜めみてえな船の一室で狂った男に殺されようとも、悔いなんざ残らないことを心得る。楽しい楽しい人生だ。自ら投げ出すなんざ勿体無い。そんなのは、強きを求めては死に急ぐ馬鹿だけで十分だ。
そう思って、ついているのだ。


(130102/あけくれ)

- ナノ -