赤ちんは黒ちんにご執心だ。今に始まったことでもないので、俺は黙々と5袋目の菓子を開封する。部室に隣接したミーティングルームで放課後、部活の後にくだらない話をするのがこのところの習慣になっていた。赤ちんにとってのそれは当然クダラナイものではないのだろうけど、俺には理解が及ぶはずもないし、考えるのだって本当はめんどくさい。単なる暇潰しでも、ひとりで食べる菓子よりはおいしいんじゃないかとか、赤ちんに付き合う理由といえばその程度。
で、これは最近になって気付いたのだが、赤ちんの話題に上る事柄において、バスケか同期レギュラーメンバーの中でも黒ちんの占める割合がなんだか多い。まるで新しいおもちゃを手に入れたこどもみたいに嬉々として、黒ちんについて様々な見解を示す赤ちんは普段の彼からすればちょっと珍しいかもしれない。こんな単純でいいものかと、俺ですら心配になる。
「赤ちんは黒ちんが好きだよね」
普段から相槌もろくに打たないのだが、あまりに収拾のつかない黒ちん談義につい口を挟んでしまう。あーやっちゃったなあと言い終えて後悔。
「僕は強いものはみんな好きだよ」
加えて、
「敦は僕が好きだろう」
冗談でもそこは、敦のことももちろんすきだよ、とか。赤ちんは俺に甘いけれど、同じくらい当たりがシビアだ。黒ちんにはべた甘なくせに。ずりいーなーって、思いながら、いつものことだから返事はスルー。
「黒ちんは好きだけど、強いってふうには見えないよ。黒ちんのプレースタイルも、俺は正直うざったい。赤ちんの評価には値するかもしんないけど」
正直、今だって謎でしかない。赤ちんが黒ちんを重宝する理由。
「テツヤはきっと、敦のことが好きだよ」
「ナニソレ」
「テツヤにとっての一番はバスケだからね。バスケをするのに一際恵まれた才能を持ってる敦を、イチバン羨んでる。バスケを好きなだけ、テツヤはお前を見るんだよ」
黒ちんに好かれてもなあ。俺に興味があろうとなかろうと、そんなことは二の次なのだろう。それに黒ちんのイチバンはきっと青ちんだよ、なんて言えやしない。変なところで彼のスイッチを入れたくない。導火線に火つけるなんて道化は御免だ。
知ってるんだろうけど。
知ってて俺を試してるんだよね。赤ちん好きだし、今の環境も嫌いじゃないからこの均衡は俺には崩せない。赤ちんの思うがまま、動かされるのも何故だか悪い気はしなかった。
「さて、帰ろうか」
口が渇くんじゃないかというほどの長い話を切り上げ、赤ちんが立ち上がるまでに消費した菓子袋は足元の屑カゴを一杯にしていた。ギイと、パイプ椅子を鳴らして立ち上がる。
「途中で何か奢ってあげよう」
「ホント?赤ちんやさしー」
何にしようか、真剣に悩み出す俺に呆れ顔をするでもなく、赤ちんはひとまわり点検の後体育館に錠をする。
「鍵を返してくるから、正門で待ちながらでも考えておいてよ」
そうして俺の中にモヤついていた黒ちんのことが、幾度目かの保留事項に加えられた。報酬は駄菓子とアイス。放課後の時間はそれだけで、十分意味のあるものになる。


(120605/日々のこと)

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