昨年の今頃にまだ咲いていなかった桜が、狂ったように咲き乱れている。今年の暖冬に感化されて、春が急ぎ足でやってきてしまったような。そういえば俺たちの代の入学式には、あの正門沿いに並ぶ桜が遅咲きの満開だったんだっけか、とか。そんなことに思いを巡らせていると、高校入ってはじめての部活に知った顔があった俺のあのなんとも言えない戸惑い、憤り、一周まわって思わず笑っちまった記憶まで鮮明に浮かんでくるものだから。
「何を笑っているのだよ」
「え?ふは、いたの真ちゃん」
あの頃と同じ髪型、眼鏡、指に巻いたテーピング、唯一変化しているのはお馴染みのラッキーアイテム。
「今日はなんだっけ、それ。はにわ?」
「朝も同じことを聞かれたが土偶なのだよ。部への顔出しはもういいのか」
「それなら、この間盛大に送別会したじゃん。今日だって挨拶には行ったしさ」
「そう言って、こいつを取りに行ったきり戻らないから来たのだよ」
俺の座るチャリアカーを指差して、真ちゃんは溜息をつく。今日は卒業式だった。真ちゃんの胸元に添えられた赤い花が、学ランの色に映えて目の奥をつんとさせる。分かってはいたことだけれど、花粉症でもないのにずるずると、目から鼻から口から、弱さの塊のようなものがこぼれそうになるのはなんなのか。
「先輩には挨拶しておいたからな。最後の最後、来ないおまえを大坪さんは笑っていたが」
「だってかっこ悪いっしょ?泣くもん、おれ。真ちゃんのその花、もうそれですら泣く」
体育座りで蹲るおれの肩に手が触れる。情けないとか、思ってんだろうな。それでも慰めてくれんだもんな、レアだよ、真デレなのだよ。
「桜まみれだぞ、高尾」
「真ちゃんも人のこと言えねぇよ」
春の風に吹かれて、真ちゃんの整った前髪が揺れる。
「帰ろう」
あと2年、俺たちは変わらず笑ってこの道を歩けるだろうか。
そういえば、宮地さんは怒っていたぞと真ちゃんが笑う。今度轢きに来るそうだ、と、笑いながら少しだけ泣いていた。真ちゃんも花粉症?なんて、出かかった言葉は飲み込むことにした。


(130404/桜の季節)

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