夢を見た。
夢の中でわたしは汚れた服を着て舞踏会のようなところにいた。
人々の馬鹿にするような視線を感じ、恥ずかしくなる。高級そうなドレスをまとった貴婦人から頭のてっぺんからつま先まで不躾にジロジロ見つめられ、その場から逃げ出してしまいたくなったそのとき、わたしを誰かが呼んだ。その声の向こうに、フランがいた。
「なまえセンパイ、ミーと踊りませんかー?」
そんな言葉と共に手を取られ人混みの中心に向かう。人の突き刺すような視線は相変わらず辛かったけど、隣にフランがいると思えば不思議と平気だと思えた。いつの間にかクスクスと自分を嘲る笑い声も気にならなくなって。
どんなに綺麗な花よりも、美しい宝石よりも、フランはわたしを世界で一番幸せな女の子にしてくれる。彼が想ってくれる限り、例えシンデレラの魔法が解けたってわたしは笑っていられる。
こんなにもフランが好きなんて。いや、愛してるなんて。少しおかしい。
「フラン、愛してる」
そう伝えれば、彼が微かに微笑んだ気がしたのは、気のせいだろうか。
センパイ。どこかで呼ばれた気がした。ゆるゆると重たいまぶたを開くとそこにはフランがいた。
「なまえセンパイ、目が覚めましたー?」
「あ、おはよフラン」
「おはよ、じゃないですよー。ミーがどんだけ我慢したと思ってるんですー?」
我慢って何を、と聞こうとしたけどやめておこう。なんかフランも苦労したんだな。フランを眺めそんなことをぼんやりと考えれば、不意に近づく彼の顔。前も思ったけどこいつやっぱまつ毛長い。
「というか、近いよフラン」
「別に恋人なんだからいいじゃないですかー」
それはそうだけど、まだこの距離には慣れない。かあ、と頬が熱くなる。
「あ、センパイ照れてるんですかー?」
ニヤリと笑うフランに図星を突かれ、慌てて手のひらで顔を隠す。なんで妙に嬉しそうなんだこのカエル。
「わ、悪い?アンタみたいに余裕あるわけじゃないし」
「可愛いですよー。ほっぺ林檎みたいだし」
更に頬が赤くなったのがわかった。絶対フランわかってて言ってる。可愛いとかいきなり言われても心の準備が全然出来てなかったんだけど。くそ、今すぐこの場から消えてしまいたい。
「夢、見たよ。フランが出てきた」
恥ずかしいので慌てて話題をそらせば、フランも興味深そうにへえ、と答えた。
「その中で愛してる、なんて言っちゃったよわたし」
「ちょっと待ってくださいー。センパイ今なんて言いましたー?」
「だから、夢でフランに愛してるって言っちゃったんだ、よ」
はっとして口を押さえるも後の祭り。フランは大きく目を見開いている。どうしよう、引かれたかも。
「ふ、フラン!今のはその変なこと考えたわけじゃなくて、その」
「愛してる、ってミーをですかー?」
てっきり、気持ち悪いと言われると身構えていたわたしが見たのは。
「フラン?」
真っ赤になって手で口を隠すフランだった。あれ、なんだこれ。
「どうしたのフラン。大丈夫?」
「なまえセンパイ、それ素でやってるんですかー?」
「至ってわたしは普通だけど」
そう言って首をかしげれば、フランはそっぽを向いて小さくつぶやいた。
「…愛してる」
今度は、わたしが真っ赤になる番だった。
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