「うーん。どうしよう」
談話室で一人、悩むわたし。内容はもちろんこの前双子から言われたことだ。
「フランのことが好き、か」
悩んでいるのはそう思えないからではなく、その通りだとわかってしまったからで。そう、どうもわたしは自分でも気がつかないうちにフランに恋していたらしい。それはそれでもうどうしようもないのであって。
問題は、フランにそれを伝えるか伝えないかなのだ。
正直なところ、怖い。この前のメイドさんみたいに冷たい言葉を返されるような気がして。考えてみたらわたし、フランには散々酷いこと言ってるしやってる。
これじゃあ駄目じゃん、絶対。
「でも好き、なんだよね」
「何がですかー?」
「おわっ!ふふふフラン」
一人でブツブツ言ってたからか、フランの登場に全く気がつかなかった。おかげで奇声をあげてしまったではないか。
「い、いつからいたの?」
「センパイが一人で怖いとか駄目だとかぼそぼそ言ってるときからですー」
ほっと安堵の息をつく。まだバレてはないようだ。
しかし安心する間もなく、フランが再度わたしに尋ねる。
「で、なまえセンパイ何が好きなんですー?」
そこで素直に言える人がいたら見てみたい。それはわたしも例外ではなく、何も言えずにただ赤くなっているだろう頬を隠すためうつむいた。
「センパイ、どうかしましたー?」
「なんでもないから!大丈夫」
そう言いながら顔を覗こうとするフランに慌てて答える。すると、しばらくの沈黙のあと頭に少しの重みを感じた。それがフランの手だとわかったけど、なんだか心地よくてじっと大人しくする。
「なまえセンパイ。困ってるならミーを頼ってくださいよー」
上から降ってくるいつになく優しい言葉に、どきんと鼓動が高鳴った。
ああ、やっぱり。溢れるこの気持ちは抑えてはいられない。
もう後先のことなんてどうだっていいから、キミに伝えたい。
── フラン、大好き。
顔をあげれば、エメラルドグリーンの瞳がわたしを見つめていた。
吸い込まれてしまいそうなその目にクラクラする。視線を合わせたまま、自然と言葉が飛び出した。
「フラン、好き」
ずっと嫌いだと思ってたけど、それはただ認めたくなかっただけなのかも。本当はね、最初会ったときその瞳に、声に、仕草に、わたしは魅せられていたんだ。
「なまえセンパイ」
「あ、今の別に気にしないで。ただ言っときたかっただけだから」
そう、ただそれだけ。だからフランの口からどんな酷いことを言われても泣いちゃ駄目だ。
「気にしないでってなんですー。ミーの気持ちは聞いてくれないんですかー?」
突然そう言ったフランは、少しすねているようで。
「え、でもフランわたしのこと」
「大好き、ですよー」
大好きです、と繰り返した彼に今のは夢じゃないとわかった。
そしてそれを理解したときは、わたしはフランの腕の中でわんわん泣いていて。いつからわたしはこんなに涙もろくなったんだろう。
泣き止まないわたしにフランはほんの少し困ったような、でもとても嬉しそうに笑った。それはそう、まるで大切な宝物を見つけたときの男の子みたいで。
その表情のまま、ごしごしと隊服の袖でわたしの頬を拭う。
「本当に手のかかるセンパイですねー」
「アンタなんかっ、もっと世話が焼ける後輩だっ」
泣きながらわたしも言い返した。そんなやりとりにもフランは笑ってわたしを更に強く抱きしめる。
「大好きですー。なまえセンパイ」
「わたし、も」
そうしたら、なんだかおかしくて二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
ハッピーエンドはやっぱり、笑顔で迎えるものでしょう。
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