ねえねえお姉ちゃん、と可愛い二つの声が響く。
「何?どうしたの」
「手つないでいーい?」
にこにこしながらそう言うのはぱっちりした目の可愛い女の子。隣の男の子はもじもじしている。
なんだこの可愛い小動物たちは。
抱きしめたいのを我慢してはずかしそうにうつむいている男の子に笑いかけた。
「どうしたの?言いたいことあったら言っていいよ」
「ぼ、僕も手つなぎたいっ」
「いいよ。ほら」
ぎゅっと二人の手を握ると向こうも握り返してくれた。そんなところも本当に可愛いくて、思わず微笑みがこぼれる。
ちなみに、この子たちは今日ヴァリアーに依頼にきたファミリーのボスの子供たち。うちのボスと話している間面倒を見てくれと頼まれ、暇だったわたしが引き受けたのだ。双子の姉弟ですぐにわたしにも慣れてくれたらしく、先程から甘えてくる。
「パパ、まだお仕事終わんないかなあ」
「パパと早く遊びたいな」
淋しそうにうつむく男の子の頭をわしゃわしゃとなでてあげる。
「わ、やめてよお姉ちゃん」
「大丈夫、もうすぐパパもお話し終わるから」
そう言ってあげれば嬉しそうに笑う。やっぱり可愛い。
やっぱまだ小さいしお父さんのこと大好きなんだ。わたしなんて、今はもう里帰りも長期休暇がでたときくらいしかしないし。
今度久しぶりに会いに行ってみようか。
「何気持ち悪い顔してんですー」
「げ、フラン」
うわ、出た。折角人が無邪気な子供たちに和んでるとこだったのに。
ヴァリアーで荒んだ心をこの子たちから放射されるマイナスイオンで癒そうとしてたのに。
しかもよりによって今わたしの中で一番わけがわからない奴でぶっちぎりのトップを突っ走るこいつが。
「げ、はないですよなまえセンパイー」
「しょうがないじゃん。てか先輩に気持ち悪いとか言わないの」
「本当のことだから仕方がないじゃないですかー」
こいつ、人に悪口を言ってはいけないとかいう世間の常識を知らないらしい。
その場で殴ろうかと思ったが、なんとか思いとどまる。だって今子供が目の前にいる。そんなことしたら折角なついてくれてるのに怖がられるし。まあそれまで優しかったお姉ちゃんがいきなり目の前で人ぶん殴ったらトラウマになっても仕方がない。こんな純粋な天使たちにそんな生々しい傷を負わせるわけにはいかない。
とりあえず無理矢理笑みを作る。ピキピキとかいう音が頬から聞こえてきたけど気にしない気にしない。
「お姉ちゃん、この人誰?」
「ミーはなまえセンパイの可愛い後輩のフランですー」
自分で言うな。ナルシかお前。
心の中で毒づくわたしに対して、フランのカエルに興味を示す双子ちゃん。
外見がファンシーだからって騙されるでない、子供たちよ。そんなわたしの必死の訴えも虚しく、目をキラキラさせてフラン(のカエル)に近寄る二人。
「カエルさん触るー!」
「僕もカエルさん!」
「ちょ、やめてくださいよー。ああもう触んないでくださいー」
いつも冷静なフランも子供たちの勢いにはさすがにかなわないらしく、焦った声を出している。おお、これはかなり面白い。もう少し見とこうかな。
「なまえセンパイ笑ってないで助けてくださいよー!」
「ええ、無理だよ。だってそんなに輝いた瞳の子供たちを止めるなんてわたしにはとても」
「二人とも、あそこのバカ女殴ってきていいですよー」
ば、バカ女だと。もう限界、このアホガエルぶっ潰す。
多分今わたしの後ろには効果音付きのオーラが出ているに違いない。現に双子がすごい早さでフランの後ろに隠れたし。
「フラン、覚悟はいいね」
そう言ったとき。
遠くで小さな双子の名前を呼ぶ男の人の声が聞こえた。パパー、とそちらに駆けて行く二人。最後にわたしの耳にこうささやいて。
「お姉ちゃん、カエルのお兄ちゃんのこと好きなんだね」
「え、好き?」
「お兄ちゃんのときだけいつも本気になるよ、お姉ちゃん」
そして呆然と立ち尽くすわたしと、今何があったかよくわかっていないフランがその場に残された。
うまく働かない頭の中、驚いたのはその言葉の意味をどこかで納得している自分がいたこと。
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