「センパーイ、これあげますー」
そう言ってフランがわたしに差し出したのは、四つ葉のクローバーだった。
一体、これをどこで見つけてきたのかものすごく疑問だ。
「ま、ありがとう」
「なまえセンパイ幸薄そうなんでー、優しい後輩のフラン君が探してあげちゃいましたー」
「余計なことは言わないの」
その言葉に眉根にしわを寄せながらもそう言って受け取る。
確かに最近はあんまりいいことがない。特にこいつがヴァリアーにきてからは。
わたしの一番の悩みの種から幸せのアイテムを貰うこの矛盾。少しだけ考えてしまう。
「ミー、やっさしー。なまえセンパイのことを思って探したんですよー」
それは誇張し過ぎだろ、と心の中で突っ込む。そもそも誰も頼んでないし。
それでも、フランが一人で四つ葉のクローバーを探したのかと想像すれば、なんだかおかしかった。
自然と口元が緩む。うん、こういうのも案外悪くないかも。
「ありがとう、フラン」
「うわ、センパイが妙に素直ですー。なんか変なのでも食べたんですかー?」
「アンタなんかに感謝したわたしの純粋な気持ちを返せ」
本当、なんでこいつはこうなんだか。意外といい奴かと思えば、人の神経を逆なでしたり。
はあ、と一つため息をついた。
「ため息つくと幸せが逃げちゃいますよー。折角ミーが四つ葉のクローバーあげたのに意味ないじゃないですかー」
「ご心配ありがとう。でも別にアンタがいる時点で幸せは諦めてるから」
「なまえセンパイー。それは傷つきますよー。ミーこれでもガラスのハートの持ち主なんですからー」
ガラスはガラスでも防弾ガラスでしょ。多分わたしが何してもひびすら入らないはず。
そう考えつつこれ以上フランと張り合うのもなんか馬鹿らしくなってきたので、とりあえず部屋に戻ることにした。
歩きながら、ぼんやりと手の中のクローバーを見つめる。
それは綺麗な黄緑色をしていて、なんとなくフランを連想させた。
あ、でもフランはもうちょっと濃い緑色だな。すっかり目に焼き付けられた鮮やかな緑が蘇る。なぜだか、少しだけ胸が苦しくなった。締め付けられるような痛みはすぐに消えて、焦燥感だけが残った。
「それにしても、暗殺者に四つ葉のクローバーなんてね」
夜の世界を生きるわたしと、暖かいお日様に照らされるクローバー。なんてアンバランスなんだろう。
あまりにも滑稽で思わず笑いが口からこぼれた。
ベルに見つかったら、いろいろと言われそうだ。「似合わねー」とかね。うん、あいつなら絶対言うな。
「うわ、なまえクローバー持ってんし。似合わねー」
「そうそう、こんな風に」
背後からの声に答えながら、ふと不思議に思った。
あれ、今わたしとしゃべってるの誰だ。嫌な予感を感じつつ振り返ると、そこにはやっぱりベルがいた。これ、展開がお約束過ぎないか。
「何オレの顔見て変な顔してんだよ」
「いやー、そんなことないよ?」
本当、こいつってなんでこういうときに限って出てくるのかな。
「てかそれ誰かにもらったんだよ?」
「フランだけど」
「今すぐ没収な」
ベルの言葉に言い返す間もなくわたしの手からクローバーが奪われる。ちょっとちょっと、この人いきなり何してくれてんだ。慌てて取り返す。
「いきなりなんの真似?ベル」
「王子イラついたから」
それは確実にカルシウム不足だな。今度牛乳をプレゼントしてあげよう。
そんなことを思いベルをじっと見ていると、またクローバーをもぎ取られた。
幸せを呼ぶ緑色のそれは、現在王子の手に。ちょっと、返しなさいよ。
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