全くもって意味がわからない。
歩いていたら、フランがメイドさんに告白されていただけだ。
わたしは、それを見て見ぬ振りで通り過ぎればいいだけの話だったのに。そのメイドさんは中々可愛い顔をしていて、フランと並んでいてもお似合いだった。
あんな可愛い子から告白されてフランも満更でもなさそうだと思えば、なぜか胸がズキンと痛む。
「あ、なまえセンパイー」
こちらの視線に気がついたフランがわたしに声をかけた。
メイドさんは驚いたのだろう、びくりと肩を震わせた。
「なまえ様」
邪魔してごめんなさい、と言うつもりで口を動かしたのに出てきた言葉は。
「ちょっとこのカエル連れてくわよ」
「え、ちょっとセンパイー?」
ぽかんとその場に突っ立ったままのメイドさんはそのままにして、自分でもよくわけがわからないままわたしはフランをズルズルと引きずっていく。
そして、現在に至るわけで。
「ほんっとなんなんですセンパイー。ミーに恨みでもあるんですかー?」
「ごめん。わたしもよくわかんない」
「ミーの方が理解不能ですー」
昼の中庭でフランがわたしに文句を垂れる。
気持ちはわかるし今回はわたしが悪い。なのでしおらしくしていると、静かで気持ち悪いと言われた。
こいつ、人が大人しくしてれば言いたい放題言いやがって。
「カエル、ちょっとじっとしてなさい。そこの木と一緒に吹っ飛ばしてあげるから」
「なまえセンパイ目が本気ですー」
そう言うフランに無性にむしゃくしゃする。もう、本当になんなんだわたし。この気持ちを誰か説明して。
「フラン、さっきのこと」
「あー、あれですかー?それならお断りしましたー」
ほえ?と我ながらものすごく間の抜けた声が出た。でも今はそれどころではなかった。
ヘニャヘニャと力が抜けてへたり込む。
「わわっ。センパイ大丈夫ですかー?」
フランがわたしの顔を覗き込んだ。緑色の髪がさらりとわたしの頬にかかる。
あれ、なんか距離近くないか。
がすっ、とフランの足を蹴り飛ばす。
「フラン、近い」
「センパイ地味に痛いんですけどー。元気みたいですねー」
「別に元気だよ。てかあの子結構可愛いかったじゃん」
そう言いながら立ち上がると、なぜかフランはそっぽを向いた。
心なしか機嫌悪く見える。かなり怖い。
「ど、どしたのフラン」
若干怯えながら尋ねると、突然フランがわたしを壁に押し倒した。
やばい、もしかして怒ってるのかも。
「センパイ、ミーがあの女と付き合っても良かったんですかー?」
「えっ、別にわたしは関係ないじゃん」
「そう、ですかー」
わたしがそう言うと彼は少し悲しそうに目を伏せた。
わ、まつ毛長いな。お互いの鼻がくっつきそうな距離なものだから、そんなことばかり考えてしまう。本当に今日のわたしはおかしい。
「な、なんでそんなこと聞くの」
「なんとなくー」
適当に答えるカエルに多少のイラつきを感じる。というかいつまでこうしてるつもりなのか。
「もう好い加減離してくんない?」
「いやですー。センパイが鈍過ぎるのが悪いんですよー」
「意味わかんないんだけど」
本当、意味わかんない。急に機嫌が悪くなったフランも、あのメイドさんが振られたって聞いてホッとした自分も。
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