「あ、結婚式だ」
任務からの帰り道、教会で結婚式が行われているのを見かけた。
少し恥ずかしそうで、でもとびっきり幸せそうな二人。
飛び交うのは祝福の言葉。
「何なまえ結婚とかに興味あんの?ならオレの姫になれば豪華なの開いてやんぜ」
「大丈夫、間に合ってるから」
ベルの言葉をさらりと流しつつ、視線はまだそちらへ向ける。
わたしなんて職業がかなり特殊だから、まず普通の人みたいな結婚は無理だな。
そもそも結婚してくれる相手が見つかるのかどうか疑問。
「そういやなまえ六月の花嫁ってやつ知ってる?ほら六月に結婚したら幸せになれるとかいうの」
「わたしはなんでベルがそれを知ってるかが知りたい」
この人そんな趣味あったっけ。
「王子はなんでも知ってんだよ」
「わーすごい。そんけー」
「…なんか言い方ムカつく」
投げやりに言うと、かなりのスピードでナイフを投げられた。
ああやだ、ベルって本当に冗談通じない。
「危ないな。いちいち本気にしないでよね」
「かんけーねーよ。だってオレ王子だもん」
「もう好い加減王子とかって歳じゃないじゃん。大人になろうよ大人に」
はあ、とため息をつきながら言えば、さっきの倍の速さでナイフが飛んできた。
いやあ、危ない危ない。余裕綽々って顔をしながらも、背中には確かに冷たいものが這った。
「ちょ、わたし殺す気なのアンタ!」
「ししっ、それもいいかもな」
いや、全然よくないんだけど。
ベルのナイフから全力で逃げていたからか、戻ってきたときには汗だくになっていた。
「あいつ、本気で投げやがって」
あまりにも子どもっぽ過ぎるんじゃなかろうか。
ちくしょー、よけるの大変なんだぞ。
悔し紛れにベルに対する呪いの言葉を吐いていると、向こうからフランがやってきた。
思わずこの前のことを思い出す。ああ、カエルの前で泣くなんてわたしとしたことが不覚だった。
「あ、意外とビビりのなまえセンパイじゃないですかー」
ほら、この通りだ。
心の中で舌打ちする。もちろん表情には出さないが。なんとか必死に笑顔を保つ。
「あ、フラン。この前はどうも」
「何平然としてんですー。泣いてミーに抱きついてたのは誰でしたっけー?」
「う。そ、それはフランがわたしのこと…」
駄目だ、口にするのも恥ずかしい。あれから何度夢にあのシーンが出てきたことか。そこで飛び起きて、眠ったらまたその夢という悪夢のループに嵌って最近は少し寝不足気味になっている。本当フラン恐るべし、だ。
「やだなあ照れちゃってー。センパイ可愛いかったですよー」
「その辺でやめないとそろそろ本気で殴る」
「きゃー、暴力はんたーい」
ぐーにした手をあごに当てわざとらしく悲鳴をあげるフランに少々、否かなり殺意を覚える。
「ミー思うんですけどセンパイそんなんじゃ貰い手できませんよねー?」
「うわいきなり何このカエル」
「だからー、もしものときはミーがセンパイを貰ってあげますよー」
もの凄く失礼な言葉のあと、フランはわたしにそう言った。
それはきっと彼のいつもの冗談なのになぜか、頬が熱くなった。
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