「無いっ…ない、ないないないないないっ…!!!」



俺の愛するこの人間には愛がない。ただしく言えば、愛情というものを理解出来ないようだ。



ふと彼女は昔の記憶を思い起こすと ない と叫ぶ。

愛がない、と。

その大したトラウマがいつ彼女の中で呼び起こされるかは、情報屋の俺でも分からない。

けれど、それでこそ、狂ってて歪んでて、いとおしい。




「君が言うなら無いのかもしれないね?」



涙も偏った思考も止められない今の彼女は軽いパニックを起こしているようだから、俺の言葉なんてちゃんと届いてるか分からないけど。



「君が見てる世界に愛が無いだけ。君が創ってる世界に愛が存在してないだけだから。ほら、泣かないで」


彼女の涙を拭ってあげると、赤く腫らして開いた目に俺が写る。



「………ど……し…て…?」



「ん?」



「どう、して…おりはらさん…、わたしに……やさしくするの…?」



「愚問だね。君を愛してるからだよ」



「な、んで……?」

驚いた顔の彼女を、愛に脅えるこの子を、抱き締める。



「それはまたあとで教えてあげる。今は君の知らない愛を知るべきなんだから」





「…あ…ぁ…あ…い……愛は…」



「あーだめだめ、愛がないなんて言わないで」



彼女の指に絡ませる。

優しく、確実に彼女を捕らえる。



「俺が愛を証明してあげるから」




A love removes other ones




どっぷり堕ちてみせてよ