振り/阿→榛






俺はただ、



風に触れるだけ。









昼休み。

静かに試合の配球などを考えようと

誰もいないところを求めて校舎裏の小さな庭まできていた。


ここは綺麗な庭なのだが、
玄関から少し離れているので
短い昼休み中はほとんど誰も利用しない。

たまにちらほら人がいたりするくらいだ。

だから結構穴場だったりする。


庭にひとつだけあるベンチへ向かうと、

今日はすでに先客がいた。



「…なんでこんなとこに…」


同じ野球のチームで、
バッテリーを組んでいる榛名元希。

その人がベンチに横になってスヤスヤと眠っていた。

ベンチの下にはパンの袋と空の牛乳パック


この眠りの深さからして、



「…授業サボってたな、この人」



俺が目の前に立ってもまったく起きない



「…」



その場にしゃがんでパンの袋と牛乳パックを拾うと、ベンチの少し後ろにあったゴミ箱に捨てた。



「…ゴミくらい、ちゃんと捨てろよ」



「すー…すー…」



まったく起きる気配がない。



「…」




俺はしゃがんだまま


元希さんの顔を見た。




いつも切れ目で、


口が悪くて、


自己中な先輩の寝顔。





目が閉じていて、



だらしなく口が開いていて、






「…」







風が通り抜けた。



元希さんの髪の毛が微かに揺れる。








次の授業も



サボる気なのだろうか







「…」





俺は無意識に


手を元希さんの方へ伸ばしていた。





「…」





「……ん、ん…」





「…!」




元希さんの前髪に触れる瞬間。



手が止まる。




「…」






俺、


何しようとしてたの…






「…」




伸ばした手をひっこめて


俺は口元を抑えた。






元希さんの顔を見る。




まだ気持ちよさそうに眠っている。





「…なんだよ…」






俺なんかに




気づきもしない






俺なんかを






見ようとしない









俺は配球のことなんて


すっかり忘れて




元希さんを


見ているのに




「…」






俺はここにいる





早く




起きてくれよ。








また伸ばした手は、



臆病なままで。





指の間を




ぬるい風が


通り抜けていっただけだった














触れる



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