HP/親世代/ルーピン(つづき)




ボクは走っていた。

後ろを振り返る余裕などなかったが、

追いかけてきている気配はしなかった。





…はっ…はっ…はっ…




もうすぐ家だ。





ドアをバタンと開けた。



「…パパ!ママ!!」


家の中に入ると、
ボクは大きな声を出した。



「ママ…!エウパロさ、…エウパロは狼人間だったんだ!!」


おかしい。

いつも帰ってきたら玄関まで出迎えてくれるママが来ない。




「ママ!どこにいるの!」



ママを探して色んなところのドアを開けた。

心臓がうるさいほどにドクドクと鳴る。




ボクはキッチンに入った瞬間、


手に持っていた本を床に落とした。



「……マ…マ…」




キッチンには、
血塗れになって倒れているママの姿があった。





ボクは目を疑った。



「…マ……ッママ!!」

ボクは叫ぶようにママに近づいた。
血がつくのも構わず、
ママを抱き起こす。
胸から腹にかけて三本の大きくて深い傷があった。
まるで獣かなにかにひっかかれたような


「……うそ…うそだ……ママ……」


ボクはママの横に落ちていた杖を掴んだ。


「…ママ…ママ!傷を塞ぐ魔法はなんだった!?…ねぇママ!教えて!」


ママは目を開いてくれない。

ボクはガタガタと震える手でママの傷口を押さえた。


「…パパ!パパ!ママが死んじゃうよ!」


パパに呼びかける。

まだ街から帰って来ていないのか。


「…ッ……どうしよう……どうしよう………ママ、死なないで……」


なんとかママの血を止めようと手で傷口を塞ぐが、
ボクの手が小さすぎてまったく追いついていない。


目に涙が溢れてきた。




すると玄関からガタンと音がした。


「…!!ママ、待ってて!パパが帰ってきたよ!」


ボクはママの杖を持ったまま玄関に走った


「パパ!ママが!ママが……!」


しかし玄関に立っていたのは
パパではなかった。


「………エ、…パロ……」


「…あぁ、ただいま…」


血や泥などの混じった悪臭を漂わせて
嫌な笑みを浮かべたエウパロがボクの目の前に立っていた。

彼の姿はさらに狼人間に近くなっている。


「……安心しろ…まだ完全に変身しちゃいない…」


ふと、

エウパロの後ろに人が倒れているのに気づいた。



「…パ、パパ!!」


ボクはズボンの色でパパだとわかった。
お腹の辺りに大きな傷があり、大量に血を流していた。


「…パパ…?このマグルのことかい…?…さっきそこで会ったんだ…」


エウパロは、手に持っていたパパの片足を持ち上げた。

片足を掴んで引きずって来た様だ。


「……お…、お前がパパとママを…!?」


「…ママ…?あぁ、キッチンにいた魔女のことかい?」


エウパロは楽しそうに笑いながらそう話す。


「…どうして!?パパもママもお前に優しくしてやったのに…!あんなに楽しく話していたのに…!!」



「…あぁ…そりゃ悪かったね…


俺はマグルが大嫌いなんだ」



エウパロはそういうと、
掴んでいたパパの片足を振り上げて横に投げた。
パパの身体は飛んでいき、壁にぶつかった


「…ッ!…パパ!!」


ボクはパパに駆け寄る。


「…パパ!…パパ!しっかりして!」


ボクが話しかけても、
パパはまったく反応しなかった。


「…あと、ママを殺した理由だねぇ……そうだなぁ…」


エウパロが後ろに近づいてきていた。
ボクはビクッと振り返る。


「そうだ!…朝食が気に入らなかったってのはどうだい?

知ってるだろ?

…サラダは嫌いなんだよ…

俺は肉食なんでね」



「う、…うるさい!」


ボクはニヤニヤと笑うエウパロにママの杖を向けた。


「…ほぉ…試してみるか?俺が教えてやった魔法で…俺を倒してみるか…?」


エウパロは一歩ずつ近づいてくる。

ボクの杖を持つ手は
情けないほどにガタガタと震えている。


教えてもらった魔法も、
本で読んだ魔法も、

何一つ思い出せなかった。


「あの魔女がいないところで教えてやった魔法があるだろう…あれは闇の魔術だ……さぁ、やってみろ…」


前に出した杖に、
エウパロの肌が触れるくらい
臭い息がかかるくらい近くなっていた。

ボクの目は、また涙が溜まってきて
もうエウパロの顔がぼやけてしっかりと見えていなかった。


「…どうした…?できないのか…?」


「…、……」


「……チッ…」




エウパロは舌打ちをすると、
ボクの手をバシッと叩き

杖を払い飛ばした。



「……ッ、あうっ…!」





飛んでいった杖が
カランカランと音を立てる。

叩かれた手がジンジンした。





「杖の振り方も知らねぇガキが、俺に喧嘩を売るんじゃねぇよ!」



エウパロはボクに顔を近づけ、
大声で怒鳴る。

唾が飛んできた。


ボクの目からついに涙がこぼれた。


「…これだからガキは嫌いなんだよ…」



ボクはエウパロから一歩後ずさった。



「…今度は逃げるのかい…?…パパとママは…?助けないのかい…?」


「……ッ…」


ボクはまた一歩下がる。


「……ふん…、とんだ弱虫小僧だねぇ…」


エウパロがニヤッと笑った瞬間、
ボクはキッチンの方へ走った。





「……まぁいい…もう日は沈んだ……」




キッチンの扉を閉めるとき

またメキメキと骨が軋む音と、


叫び声ともとれる吼え声が家中に響いた





ボクは外に出るためキッチンの裏戸を開けた。


ボクは後ろを振り返る。
キッチンにはママが倒れたままだ。


「……、…」


涙が止まらなかった。





逃げるのか…?



パパとママをおいて…



ボクだけ逃げるのか…?



ママは戦ったのに…





…………、





だってかないっこない。



簡単な呪文ですら
成功したことのないボクが、



狼人間なんかに


勝てるはずがない






「……ボク…どうしたらいい…?」


ガタガタと震えながら、

小さな声でそう言う。


返事が返ってくるはずもなく、

辺りはとても静かになった。





その瞬間、

また狼の遠吠えが響いた。




「…、ッ…!」


ボクの身体はビクッと跳ね、

そのまま家の外に飛び出してしまった。


外には雨が降っていた。





助けを、呼ばなくちゃ…


あいつをやっつけてもらって、


パパとママの傷を治さなくちゃ…



ボクはひたすら街への道を走った。
雨で草道がすべり、
とても走りにくい。

家は街から少し離れたところにあるので、
走っても一時間はかかる。
運動神経が悪くて、走るのがトロいボクならもっとかかる。



だけど走った。


横腹が痛くなってもとにかく走った。




この小さな丘を下ればもう街が見えてくるはずだ。

痛くなってきた横腹を押さえて走っていた





その時、

ボクは転んだ。


何かに躓いたわけではなく
滑ったわけでもなく

後ろから頭を掴まれ、
そのまま前に押し倒されたのだ。

ボクは何が起こったのかわからなかった

ただ押さえ込まれた頭と膝がとても痛かった。



「…そんな遅い足じゃ…すぐに追いつかれちまうぞ…」


ボクはサッと血の気が引いた。



「…街に行ってどうする…?あそこはマグルの街だ…ただのマグルに俺が倒せるとでも思ったのかい…この弱虫小僧」


声は、今にも笑い出しそうなくらい楽しそうに話す。

ボクはまた身体の震えが止まらなくなっていた。


「…こうやってガキを追いつめて、恐怖に支配された顔を見るのが…俺は大好きでね…」


声の主はボクの肩を掴むと、
仰向けに転がした。


雨が口の中に入ってくる。



「……、…!!」


もうそれは完全に狼人間だった。

ボクはここで殺される。

瞬時にそう思った。




「………ェ………パ、ロ……」



「…違う…俺はエウパロなんて名前じゃない……」


狼人間は震えるボクの首を片手で押さえながら嬉しそうに笑う。




「……フェンリール・グレイバックだ……覚えておけ…」




フェンリール・グレイバック

本で読んだから、名前は知っていた。

確か例のあの人と呼ばれる闇の魔法使いに使える死喰い人だ…


「…ッ、…う……」


フェンリール・グレイバックが首を押さえる力を強くした。
ボクは苦しくて目を閉じる。



首を折られるのだろうか…





「…暴れるなよ…魔法省に感づかれる前に済まさねぇとな……」


「……、…?」


ボクがうっすらと目を開けると、

フェンリール・グレイバックが顔を近づけてきていた。


血が沢山ついた口を大きくあける。

鋭い牙が見えた。


「……ゃ、……!!!」


ボクは恐怖に駆られ、
首を押さえている手を掴んだ。

しかしボクの力ではどうしようもない。



フェンリール・グレイバックの口が、


服の上からボクの肩に咬みついた。



「…ッッァ゙ァ゙アァアアアアア!!!!」



咬まれたところが焼けるように熱い。

ボクは掴んだままの手に爪を立てた。



「…ッァアアア、アア!!いたいぃ!いたいよーーー!!!」


どれだけ叫んでも、
雨の音で声は街には届かない。

フェンリール・グレイバックの牙がさらにくい込む。



「い゙…ッ……あああっ…たす、…たすけて、たすけて!!ママ…!パパ!!」








フェンリール・グレイバックが顔をあげた頃、ボクは泣きすぎて叫びすぎて放心状態だった。


「…最高の叫び声だったぜ…クックックッ……これでお前も俺と一緒だ……いつでも死喰い人に歓迎する…」



「…、……」




その瞬間、フェンリール・グレイバックの姿は消えていなくなっていた。

ただ笑い声だけが辺りに響いた。





「……」



ボクは動けなかった。


動こうとも思わなかった。



地面に寝転がったまま、

ただ降ってくる雨に濡らされていた。




「…………マ………、……マ………」





気を失う瞬間、


雲の隙間から見えている満月が


涙でうっすらとぼやけた視界に映っていた





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