HP/親世代/ルーピン
ルーピンの過去構造。





エウパロと名乗る男が
家を訪ねてきた。

男はボロいマントを纏い、大きなカバンを持っていた。
旅をしていて宿を探していると。

うちはけして裕福な方ではなかったが、
パパとママは困っている人を見捨てるような人間ではなかった。

パパとママはエウパロを快く迎え入れた。



エウパロが家に来てからというもの、
友達が少なかったボクは
うれしくて仕方がなかった。

エウパロはボクに旅の話をしてくれた。


「じゃああなたも魔法使いなんだね!ボクのママも魔法使いなんだ!」


食事中、
ボクはエウパロの隣に座り、話を聞いた。


「…あぁ、…これが俺が旅をしてきた道だ…」


エウパロが杖を取り出してひと振りすると
杖の先から地図が出てきて、道がスーッっと金色に光った。

まだ魔法を使ったことがなかったボクは目が輝いた。


「…すごい!…あっ、ここって巨人の巣の近くでしょ?ボク本で読んだことあるよ!」


ボクは地図を指さした。


「…あぁ、あいつらは凶暴だ…しかし単細胞だからな、出し抜くのは簡単さ」


エウパロはボクの頭を指でコンコンとつつきながらそう言った。


「……へぇ…」


「…それに巨人の居る場所はすぐわかる。あいつらは臭いし動く度に地震を起こすからな…クックックッ…」


「あははは」


ボクは笑った。

パパもママも笑って聞いていた。




「…坊主、ニンジンが嫌いなのか…」


シチューのニンジンを避けて食べていると
エウパロがボクの皿をのぞき込んだ。


「…うん、あまり好きじゃない…」


「…そうか、俺もだ…」


ボクはエウパロの皿をのぞいた。
ニンジンどころか野菜のほとんどが残っている。


「…残したらママに怒られちゃうよ…魔法で消せない?」


ボクはコソッと言った。
ママはキッチンへ立っていたし、パパは魔法の地図に夢中だった。


「…なるほど、やってみよう…」


エウパロが再び杖を出した瞬間、
キッチンから咳払いが聞こえた。


「ミスターエウパロ、その杖でなにをするのかしら?」

ママはサラダを盛った皿を片手にテーブルの前まで来ていた。


「……いや…なにも…」


「そう、ならいいわ」


ママは微笑んで手に持っていたサラダをボクとエウパロの前にドンと置いた。


「……ママは怒ると怖いんだ」


ボクはエウパロに耳打ちした。


「…なるほど、覚えておこう…」




次の日、
エウパロは街に宿を借りると言った。
でもボクはもう少し居てくれと頼んだ。

エウパロの話をもっと聞きたい。



エウパロは困ったようにボクのパパとママを見たが
パパがエウパロがよければ、と言ってくれたので留まってくれた。


それからは毎日旅の話を聞かせてもらった


ヴィーラの森へ行った話や、
象よりもデカいタランチュラに会った事など。


ママには秘密だぞ、と言って知らない魔法をいくつも教えてくれた。





ずっと居てくれたらいいのに。



毎日が楽しかった。






エウパロが来て、

数日経ったある日。





今日はエウパロの姿が見えなかった。
食卓に下りていくと必ずいるのに。


「ママ、エウパロさんは?」

ボクはキッチンでお皿を洗っているママに話しかける。

「あらリーマス、もうお昼よ?今日はお寝坊さんね。エウパロさんならご飯を食べてから朝早くにお出かけになったわよ?」


ご飯を一緒に食べ、
旅の話を聞かせてもらおうと思っていたボクは少しガッカリした。


「パパは?」


「今日はお仕事が休みだから街へお買い物に行ってるわ」

ママは洗い終わったお皿に杖をひと振りして棚に仕舞いながらボクの質問に答える。


「…ボクも行きたかったなぁ…」


「ならもうちょっと早起きしなきゃね」


「わかってる、じゃあ外で本でも読むよ…」


ボクはきれいに仕舞われていく皿を見つめながらそう言った。


「あまり遠くへ行かないでちょうだいよ」


ママはボクの前にサラダをどっさり置きながらそう言った。


「ニンジンはいらない…」


「残したら怒るわよ」





ボクは昼食を食べ終わると、
部屋にある分厚い本をもって外に出かけた

マグルの世界へは一人で行くなと言われていたし、
家からもあまり離れるなと言われていので
ボクは小さな丘の上にある木に寄りかかった。


今日は風が少しキツくて肌寒い気がした。


「…」


ボクは手に持った上着を羽織った。

本のしおりを挟んでいるページ本を開け、
ボクは静かに読書を始めた。


この本は、マグルのパパが初めてボクに買ってくれた魔法使いの本だ。

とても面白い本で、
5人の魔法使い達が世界中を冒険した実話だった。
その魔法使い達が考えたちょっとした便利呪文や、いたずら用の呪文なども沢山載っていた。

でもボクはまだ杖を買ってもらってないので試したことはなかった。


ボクはエウパロに教えてもらった魔法や、
この本に載っている魔法を試してみたくて仕方なかった。





冷たい風がふわっとふいたので
顔を上げると、

まだ太陽が沈みきっていない空にうっすらと月が見えた。

本に没頭すると時間が経つのが早い。

もう日は傾き、
3時を過ぎていた。




今日は満月か…


きれいだな。


夜にはもっときれいだろう…


今日はみんなで月を見ながら食事をしたいな…




「よし、もう少し読んだら帰ろうかな」


ボクはそう独り言を言うとまた本に目を戻した。




本は、5人の魔法使い達が巨人の巣に迷い込んでしまっていた。
魔法使い達の後ろに、
巨人が迫る。

何度も読んでいるが、
やはり手に汗を握るシーンだ。


エウパロの話を思い出した。

この魔法使い達は大きな足音で巨人に気づき
間一髪で逃げるんだ。




すごい…


ボクもエウパロやこの魔法使い達の様な冒険の旅をしてみたくて仕方がなかった。



巨人達に麻痺の魔法をかけ、

箒に乗って

空高くへ飛んでいく魔法使い達―…。





そのとき、

目の前を何か黒いものがすごいスピードで通り過ぎる気配がした。



「…!」


後から風に乗って
ひどく血の臭いが香ってきた。


ボクは顔をしかめる。



本を手に持ったまま、黒いものが消えてしまった方向を見た。

しかしその先に誰もいる気配はしない。


「…?」


なんだったのだろう。




ボクは少し気になったが、
目を本に戻した。


風がまたキツくなってきた。


雲が出てきている。


雨が降るかもしれない。


月も隠れてしまいそうになっている。



「…」



だいぶ辺りが暗くなってた。

寒くなってきたし
話も切りのいいところまで読んだので
そろそろ家に戻ろうかと思ったとき、

開いたページの右上あたりに赤い液体のような何かがポタリと落ちてきた。


「…?」


ボクは黙ってその赤い液体を見た。

本のページをタラリと下へ滑る。



とても濃い赤。



「…ッ……」




まるで血のような…



そう思った瞬間、頭の真上でグルルル…と獣の声が聞こえた。



「!」



ボクには上を見上げる勇気なんてなかった


「…やぁ、…坊主…」


頭上から低い声がした。
ボクはあまりの恐怖に固まってしまう。


一瞬、本の中に入り込んでしまった錯覚に落ちた。




「こんなところで何をしている?…もうすぐ夕飯の時間だ…」


頭上の声がゆっくりと喋る度に、
開いている本の上に血がポタリポタリと落ちてきた。


「…だ、だれ」


やっとのことで出た声は
とても嗄れていた。


「…だれ?誰だって?坊主、…俺を忘れたのかい…?」


声に聞き覚えがあった。

何度もこの声を聞いた。


「……?」



旅の話を聞かせてくれた

魔法をいくつも教えてくれた


楽しく話した…




「……エウ…パロ…さん…?」



「……残念だな…」


同時に、
木の上にいたと思われる声の主がボクの目の前に飛び降りてきた。


「…!!」


「さぁ…一緒に帰ろうか?」


目の前にいたのは紛れもなくエウパロだった。
しかし様子がまったく違う。
肌は灰色に変色しかけていたし、
口や手には恐ろしい程の血がついていた。


ボクは立ち上がれないまま、
ただ目の前の血だらけの彼を見ていた。


「…どうした…腰が抜けたか」


エウパロがボクを見てニヤァと笑う。


「…ど、ど…して…」


明らかに今までとは違うエウパロに
ボクは震える声で話しかける。



「…んん?」



「…ど…うして……血だらけなの…?」




「……あぁ…それは……」



一歩一歩と
ゆっくり近づいてくるエウパロ。


彼の方からメキメキと骨が軋むような音が聞こえる。

着ていた服が破れ、


肌に刺々しい毛が生え、

牙が鋭く尖ってきている。



ボクは後ろの木に縋りながら立ち上がった


ボクの知っているエウパロじゃない…








「……満月の夜は、血が騒ぐんだ…」



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