「はぁ…こりゃ黒だな」


ガリファ一家の奥方の浮気調査を初めて早二週間。

なかなかしっぽを出さないと思っていた矢先の、若い男との密会。
たしか今日は女の友人と買い物でそのままお泊まりとか言って出てきたはず。

女の友人ねぇ…

怪しまれてるのに気づいたのか。
たった二週間動かなかっただけじゃ意味ないぜ。


「とりあえず、写真写真」

商売道具のデジカメを取り出して二人の食事シーンをパシャリ。


「断言できねぇか…まぁ黒だろうけど」

まだ調査は続行だ。
決定打がなけりゃ
依頼人の元へは戻れない。



「あらあら、仲の宜しそうなカップルだ事」


「…!ハイネ!?」


タルイとか言って浮気調査を俺に押しつけどこかへ行っていたハイネが
俺の後ろからデジカメの画面をのぞき込んでいた。


「何してんの、君」



「いや二週間もバドーがいないとさ…」



「…寂しいってか?」



恋人じゃあるまいし…




「溜まるっつーか」



「…」



「…」



「…しね」



俺は一言。
またガリファ一家の奥方の密会の方へ目を向ける。

「つれないねぇ」



「おーおーいちゃいちゃしてやがんぜ」


顔近づけて笑いあう奥方と若い男。
誰が見ても友人同士には見えない風景をカメラに納める。



「…俺らもいちゃいちゃする?」



「…」



「…」



「…だぁ!お前は何しにきたんだよ!仕事手伝いにきたんじゃねぇのか!?」



「まさか」


目の前の柵に腕を付き
頬杖を付いて俺を見ているハイネ。


「…暇ならもう一個の方の依頼してくれよ」



「なんだっけ…カフェ・マノーロの愛犬探し?」


「おう」



「いやだ、タルイ。犬なんて出てったらもう帰ってこねぇよ」



「…」



ほんと、
でかい依頼しか進んでしないこの相方。



「…はぁ」



「…」



「…」



「…」



「…」



「あの人らの食事が終わるまでここにいるわけ?」



「あたりまえじゃん。食事シーンだけじゃ問いつめたってはぐらかされるだけだ。この後どこに行くかもちゃんと抑えねぇと」



「…どーせホテルだろ」



「…」



「まだ前菜じゃん…一、二時間は出てこないぜ」



「…」



「…」




俺は無言でターゲットの二人を撮る。



こんなもん何枚撮ったって同じか…




くだらねぇ



ハイネの言う通り

どうせこの後ホテルに行って
セックスするって解りきったこの二人を追うなんて。




「…」





ふと横のハイネを見る。


つまらなそうにボケーっと空を見ている




ほんと、


何しに来たんだか。





「…」



「…」



「…」





パシャ





「…」



「…」



「…何んだよ」



「…いや、口開けてっから…」



「…」



青空バックで無駄に爽やか。

ミスマッチすぎて笑える。



「…おい、保存すんなよ」



ハイネは俺からデジカメを奪いかしゃかしゃといじりだした。



「こ、こらっ新調したばっかなんだ壊したら殴るぞ」


最新のデジカメなんていじったことのあるとは思えないハイネ。
写真の削除の仕方などわかるはずがない。


「このボタンか?」



パシャ



「やめろってば。奥方のデータ消えたらどーすんだよ」



「…」



「別にお前の間抜けっ面をバラまいたりはしないってば」



「…」


無言でカメラを見つめているハイネ。



「…このボタンで写真が撮れんのか」



「そうだよ」



「…ふーん」

「…」




パシャ




ハイネがカメラを空へ向け、
そのままボタンを押す。



「…」



俺は柵に頬杖をついてハイネを見る。




「…こんな空でも、綺麗に映るんだな」



「…」



「…」



「…そりゃ…最新型だもん」



「…」



ハイネがちらりとこっちを見た。



「…?」



「…」





少し無言が続いた。








「…あ」


「…?」


無言を破ったのはハイネだった。



「ターゲット…いないぞ」



「うそ!?」




浮気調査の事もすっかり忘れ、
まったり空を見上げてタバコを吸っていた俺は大いに焦った。


冗談じゃない。

せっかくしっぽを掴んだってのに、
ここで見失ったらまた調査のやり直しじゃないか。



「…ん?」



奥方達はまだ楽しそうに食事をしていた



「…」



「ハイネ…まだい…―ッん!」




髪の毛を引っ張られ、


思い切り口元に噛みつかれた。




「うそ」




ニヤッと笑ったハイネ。


ほおけてる俺の顔をパシャリと撮り、

カメラを俺の手の上に置いて
くるっと反対方向を向いて歩きだした。



「終わったら教会来いよ」



ふらふらっと手を振るハイネの背中を見つめる。

俺の手には自分の間抜けっ面が映し出されたカメラ。




「…」




ほんとに何しに来たんだ




自分の顔の写真を削除し、


奥方達の方を見る。










…早くホテルに行っちまえ








ハイネが撮ったと思われる

ブレた地面の写真を見て



少し笑った。


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