ゆらゆらと身体が揺れる。私の足を見ればみんな怪我してるという事はわかると思うけど、この歳でおんぶはさすがに顔から火が出るようだった。それより何よりジャックとの距離にドキドキして仕方がなかった。

そう言えば、イングラムから帰る時もジャックはおんぶして私を運んでくれたんだっけ。あの時ジャックから感じた体温、一生忘れない…






すれ違う候補生たちの視線を浴びる程感じながら着いた先は、0組教室だった。



「とうちゃ〜く!」
「ジャック!も、降ろして!」
「い〜から、見て見て!開けるよ〜」



ジャックが楽しそうに裏庭への扉を開いた瞬間、飛び込んできた凍るような空気とその光景に思わず声にならない悲鳴を上げた。


驚いた。そこには大きな大きなモンスターが居た。高さ3mはあるだろうか。その迫力に思わず首にしがみついてしまうと、ジャックが苦しそうな声を出す。慌てて手を離すと彼は笑った。



「アハハハハハハハ!よく見てよ〜」
「え………あ、これ…雪…?雪で出来てる…!」
「この前なまえちゃんが見てみたいって言ってたモルボルだよぉ〜」
「もる、ぼ…」



確かに怖いもの見たさで見てみたいとは思ってたし、いつかジャックに話した事もあったっけ。



「ほんとはもっともっと大きいんだよ〜」
「すごい…」



あまりのリアルさにズルズルとジャックからズリ降ちる。見れば見るほど凄い出来だった。「一人で作ったの?」そう聞くと「うん、朝から作ってた!凄いでしょ〜?」得意気に返ってくる返事。ジャックは嬉しそうに笑っていた。




───ズキン


その屈託のない笑顔が胸に響く。その笑顔の奥で何を思って涙を流していたの?毎日ああやって一人で泣いていたの?いつも明るいジャックが当たり前だと思ってた。

───気付いてあげられなくて…ごめん












「ジャック………」
「ん〜?」
「…あの、ね?」



他愛もない話しが途切れ、また雪が降り出した。



「私、見ちゃった。ジャックが………昨日の夜、泣いてたの」
「!?」



恐る恐る顔を上げると、ジャックの表情が一瞬曇った。だがすぐにそれは明るく戻る。手振り身振りを添えてジャックは笑った。



「や、やだなぁ〜僕が泣くわけないでしょ〜?やめてよ〜」
「ジャック…」



なまえが静かに名前を呼ぶと、遮るようにジャックは顔をそらしてしまう。



「アハハハハハ…ハ、ハ…」







ザァッと冷たい風が吹いた。だがそれは酷く弱々しいもの…



───暫くの沈黙の後、ジャックは苦笑いを浮かべて静かに口を開いた。



「…見られ、ちゃったぁ…?」
「………ごめん、でも」
「そっかぁ、僕かっこわる〜い」



下を向いて首を振るジャックは悲しい目をしていた。昨日見た目と同じ、悲しい目…
それでも「言わない方がよかった」そうは思えなかった。一人であんな顔をするジャックの事を放ってはおけなかった。



「そんなことない!」



なまえはジャックの手を取り、両手で握り締めた。その手は想像以上に冷たかった。



「私、ジャックが好きだよ。泣いてるジャックも弱いジャックも全部…好き。愛しいと思うの。だからもっと私を頼って欲しいし、甘えて欲しいの」



ジャックは驚いた様子で顔を上げたが、すぐに下を向いて黙ってしまった。












「…………僕…」
「ジャック…?」
「甘えるって…甘えるってどうしたらいいかわからないんだ…」



声が震えていた。違う、それは寒さのせいじゃない。ジャックはこういう人なんだ。弱さ辛さを一人で抱え込んで、自らは道化となってみんなのムードメーカーになって…

目の奥が熱くなっていくのを一生懸命堪えた。





「そんなの簡単だよ、ただこうすればいいの」
「………!」



なまえはジャックを強く抱き締めた。出来るだけ強く、強く。ジャックの苦しみや悲しみがこのまま私に流れてくればいい。同じように私も感じていたい。


押し当てた耳から聞こえるドクン、ドクンと大きく早い鼓動は確かに私のものではなかった。








「…えへへへ、なんか…いいね、こういうの」
「でしょ?」
「うん、なんか…すごい落ち着く……し」




ジャックはそっとなまえの背中に手を回していった。




「ドキドキもする〜」
「うん、するね」
「あったかいね…」
「うん、あったかい」




二人は暖め合うように抱き締め合った。ゆっくり空から降る雪が二人に落ちては熱を持って溶けてゆく。それはジャックの胸の奥までも、ゆっくりと溶かしていった。




「ありがとね。大好きだよ…なまえちゃん」












【END】







だがしかし背後に雪モルボルというなんとも奇妙な光景…





*。. Lavender .。* 撫子





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