笑顔をとタオル
「ちょっと、何してるんですか」
名前が放ったその言葉は、意外にもグラウンドに響いた。
そんな名前の言葉に黒木は鼻で笑いながら言葉を返した。
「何をしているか?見れば分かるだろう。サッカー部を潰しに来たに決まっている」
「あ?」
黒木の言葉により、更に機嫌を悪くした名前はイライラした様子を見せ、足をトントンと鳴らし始める。
「そうだ。我々は聖帝の命令により、雷門のサッカー部を消しに来たのだ」
「はいはい分かりました。じゃあ速やかにお引き取り下さいね。出口はあそこです」
「いや分かってねえだろ!」
黒木に対する名前の対応が気に入らなかったのか、黒の騎士団のうちの一人が名前に向けてボールを放った。
「名前先生、危ない!」
思わず神童の口から声が出るが、化身を出した後のボロボロの体では成す術が無い。
誰もが名前にボールがぶつかると思い、目を閉じる(久遠は溜め息を付いていた)が、いつまでたってもボールが人に当たった様な音はせず、不思議に思った皆は恐る恐る目を開けると。
「「!!!」」
「いきなり攻撃してくるのはフェアじゃ無いんじゃない?」
軽々とボールでリフティングする名前が目に入った。
「……なっ!この女………っ!」
誰もが予想外の状況にポカンとしている一同のことなど気にせず、名前はにっこりと笑って言った。
「もう一度言いますよ。今日は入学式なんです。朝っぱらからそうそうこんな騒ぎ起こして迷惑なんですけど。え?理事長と校長も観に来てる?だから何ですか。取り合えず邪魔だし迷惑だし、喧嘩はよそでやって下さい。それでも此処に残り続けるなら入学式の手伝いしてくれません?ねぇ、ちょっとそこ聞いてるの?黒木さんにだけじゃなくって貴方達にも言ってるのよ?」
生徒の前でもあった為、出来る限り言葉遣いは悪くならないようにした様子だが、にっこりと笑いつつノンブレスで喋り続ける名前に、生徒達は勿論、黒の騎士団の一部のメンバーも顔を青くさせていた。
ニコニコと笑いながら怒っている名前に、黒木は舌打ちをすると化身を出した神童をチラリと見た後、踵を返して歩き出し、それに続いて黒の騎士団のメンバーらもグラウンドから出ていった。
その後、やっと静かになったグラウンドに、何故か浜野達が一生懸命弁解している声が響き渡る。
「いや、ちゅーか名前先生怒ってない時はすっげー優しいし!!」
「そ、そうですよ!授業だって分かりやすいですし!」
「分からない所は付きっきりで教えてくれるしな!」
(((名前先生が物凄く良い人だと言うことを伝えなければ!!)))
そんな浜野達の言葉には気付いてないのか、名前は天馬の元へと歩いて行き、さっきとは違う優しい微笑みを浮かべて言った。
「君、新入生でしょ?入学式始まっちゃうから、早く体育館行きなさいな。ほらこのタオル貸してあげるからちゃんと体拭いてから来るのよ?」
「!!あ、ありがとうございます!」
先ほど、鋭く放たれたボールを軽く受け取りリフティングした名前に、天馬は興味津々らしく、タオルを受け取りつつも目を輝かせて名前に話しかけた。
「えっと、先生のお名前は何と言うんですか?」
「私は名字名前だよ、宜しく」
「えっ!名字名前って、あの有名サッカープレイヤーの………」
「あああ!違う違う!あの名字名前じゃ無いから!えーその…………だって、今は彼女、プロリーグにいるじゃない!同姓同名の別人よー!あ、あはははは……」
ギクリと肩を揺らすも、名前は慌ててその場しのぎの言葉を繋いだ。
そんな名前の様子を不思議そうにみつつも、天馬はあっと声を上げた。
「あ、あの………体育館ってどっちでしたっけ……?」
「大丈夫、連れてってあげるよ。…………じゃ、私はこれで。浜野くん速水くん倉間くん、係サボったとして今度何か雑用頼むからね」
それじゃ。と言うと名前は天馬を連れて去っていった。
残された生徒に大きなどよめきが走るも、多くの生徒達が名前に尊敬の眼差しを送っていた事を、名前は勿論知らなかった。
(っ!!!名前先生にタオル渡されるとか羨ましい!!!!!)
(浜野落ち着けって!気持ちは分かるが暴れるな!)
(……………暴れる体力があったら、もうちょっと試合で動けたんじゃないか………?)
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