桜ひらひら
「はい、これで明日の入学式の事前確認は終わりです。新入生に優しくね!…………浜野くん、明日の入学式では寝たらどうなるか分かってるよね?今年も私が担当するとは限らないんだから………」
「えー!!俺名前先生と同じクラスが良い!な!速水、倉間!」
「あわわ、僕に言われても………」
「なんで俺に言うんだよ………」
私達がフットボールフロンティアインターナショナル、通称FFIで世界一の称号を取ったのは10年前の事。
あれから私名字名前には色々な事があったのだが、今は雷門中で理科の教師をしている。
自分の母校で働ける事はなんとも嬉しい事であるが、過去フィフスセクターで働いていたことなどもあって変装しつつの教師生活である。
変装は眼鏡をかけたりカラーコンタクトを入れたり髪の毛を染めたりと単純なものなのだが、運良く私の正体はまだバレておらず雷門中で私の正体を知っているのは、十年前からずっと雷門サッカー部監督の久遠監督だけだ。
ちなみに久遠監督とは案外長く連絡を取り合っている仲である。
私が教師をしようと就職活動に勤しもうとしていたのにも関わらず、いきなりフィフスセクターという組織を探ってくれと頼んできたのも久遠監督だ。
今の少年サッカー界はフィフスセクターという組織の管理下に置かれていて、試合の勝敗まで決められる始末。
そんなこと許せなかったので私はすぐに組織を探ることにした。
最初は雷門サッカー部に私も入って、直接的にフィフスセクターに反攻しようとしていたが久遠監督からはまだ時期じゃないと言われてしまった。久遠監督が言うならと私も踏みとどまり、今は雷門中で理科の教師をやりつつもフィフスセクターの情報を集めているのである。
私が雷門の教師になったのは二年前、つまり今の中学三年生……サッカー部で言うと南沢くんとか三国くんと同期だ。
教師のうちの一人が春奈ちゃんで、凄く驚いたと共に嬉しくて話しかけそうになったのだが自分の正体をばらす訳にもいか無かったので、春奈ちゃんの中では10年前に一緒に世界で戦った仲間と同姓同名の別人だとインプットされている。
「ちゅーか名前先生、次どこのクラス担任なんすか?」
「うーん、本当は生徒に教えてはいけないんだけど……実は新入生を担当するのよ」
「先生が新入生に取られた!じゃあ俺達が先生のクラスに遊びに行きますよ!」
「それいい!!私達も名前先生のクラスに遊びに行きます!!」
「み、みんな………」
どうやら私が昨年度担当してきた子達はとても私になついてくれたらしい。この1年を振り返っても良い思い出ばかりで、なんだか胸が一杯になる。
「……みんなありがとう。今日でこのクラスの皆も別々になっちゃうけど、私このクラスが大好きだよ。………1年間ありがとう、これからも宜しくね」
「「ありがとうございました!」」
……………と、まあ何だかんだ言いつつ私は今の生活を楽しんでいるのです。
ひらひらひら
最後の教室管理も終え、ふと窓の外へ目をやると、桜の花びらが風にのってふわりふわりと漂っていた。
私達がサッカー部を立ち上げたのもこんな日だったっけ。
そんな事を思いながらも、私は色紙一杯に書かれたクラスの子達からのメッセージを腕に抱え、教室の扉をゆっくりと閉めた。
((名前先生!一年間有り難うございました!!))
((来年も一緒のクラスが良いです!))
(そのメッセージに、少し涙したのは)
(私だけの秘密なのだ)
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