つぎはぎラブロマンス | ナノ
::通学電車の王子様

右手で暇潰しに携帯を弄って、はあと軽く息を吐いた。朝のホームには私の他にも人がいるけれど、当然こちらなど気にも留めない。私はたまに、あの人何聞いてんのかなあとかあの人何読んでんだろうとか、知らない人をじっと見たりするけど、目があったらどうしようとか我に返って結局はスマホ画面とにらめっこが落ちである。だって睨まれたら怖いじゃん。
今日だって、向かいのホームのThe大阪のおばちゃん! みたいなおばさんを見て香水ヤバそうだなと自分で想像しておきながら勝手に気分を悪くしていた。ごめんおばちゃん。おばちゃんは何にも悪くない。でもおばちゃんって何であんな香水の匂いヤバイんだろう。みんながみんなじゃないけどさ。

そんなことを考えている内に電車が来て、ぞろぞろとサラリーマンの後ろに着いて乗り込んだ。ぐらりと身体が揺れて、みるみる内にごとんごとんと速度を上げていく。
移り変わる景色をぼうっと見つめながら、今日体育あんじゃんめんどいなあ、雨降ったりしないかなあ、でもそれはそれでめんどいなあ。あ、佐々井ちゃん今日休みだったりしないかな。とか、どうでもいいことをつらつらと考えていた。ちなみに佐々井ちゃんというのは無駄に話の長い担任である。アイツのせいでいつも帰りが遅くなるのだ。

「おっはー、綾」
『おはよう純子』

私が乗った駅から二駅。友人の一人である純子が電車に乗り込んできた。彼女が隣に並んだかと思ったら、すぐさま肩を叩かれて囁かれる。なんだなんだ、昨日のジョニーズの歌番組なんぞ見てないぞ。

「ね、あそこ、」
『え?……ああ、居るね』
「うーん、今日もイケメンやわあ…」
『まあ、確かにカッコいいよね』

近寄ったら良いにおいしそうだわ。扉の脇で外を眺めているブレザーの男子。純子と同じ駅で乗り込んできた彼は、高身長で色素の薄い髪を持つ、【爽やかイケメンくん】(私命名)である。学年は分からない。先輩かもしれないし、同級生かもしれない。でも後輩の可能性はない。一年の頃に度々その姿を見かけるようになり、彼を見付ける度に密かに友達とそのイケメンさを観賞しているのだから。目の保養になるんでね。
まあ、私も純子も勿論、爽やかイケメンくんを好きな訳ではない。イケメンは見る専。遠くの花より近くの団子。な私と純子である。まあ、近くも何も女子高だから遠くにしか男はいないんだけれどもさ。まあ興味ないけど。

「あれ、藤高の制服やんな? あの見た目で頭もええんやねぇ」
『ね、世界はほんと不平等だよ』
「はぁ、やんなー」

がくりと落胆した様子で俯いた純子を横に、私は今日も麗しい爽やかイケメンくんをしげしげと見つめ続ける。…さっきから動かないで外見てるけど、窓からなんか面白いものでも見えんのかな。あんな綺麗な顔して止まってると、死んでんのかなとか心配になるわ。

『あ』
「え?」
『ヒヨコくんだ』
「えっ、な、あっ! ほんまや!」

ちょ、痛い痛い! お前足踏んでる! ヒヨコくんの登場に興奮気味の純子は、私の右足をぎゅむっと見事に踏みつけやがった。それを指摘すると彼女はすぐに足を退けてくれたのだが、謝罪の言葉はなし。

『純子さーん、もしもーし?』
「はあ……ヤバいかわいいどうしよう」

聴 け よ。
人を掻き分け、爽やかイケメンくんに話し掛ける後ろがぴょこぴょこしてる金髪男子。私命名の彼のアダ名は【ヒヨコくん】。脱色したような髪だけを見ると、一見ヤンチャそうな印象を受けるけど、…なんだろ、なんでか彼からは人懐っこそうだなという第一印象を抱いた。あのぱっと明るくなる笑顔のせいだろうか。ああいう子が居ると毎日楽しいんだろうなあと思う。
彼を目にしたときの反応を見ると、どうやら純子は爽やかイケメンくんよりあのヒヨコくん派らしい。

「はあ……ほんっまかわええなぁ。あの笑顔癒されるわ…」
『(私は災難ですけどね)……ああいうのが好みなの?』
「えー、だってかわええやん? ああいう犬っぽい? なんやろ、弟っぽい男の子? 話もおもろそうやん」
『ふうん…』
「そういう綾はどっち派なん?」
『えぇ? んー……どっちかというと、爽やかくんの方かなあ』
「やろなー」
『ヒヨコくんの方はなんか、“これからも良いお友達でいましょうね!”って感じで終わりそう』
「良い人止まり、ってことやな」
『そ』

外見で人を判断して色々言うのは良くないって分かってるけど、女子同士の話ではまあ言わずにはいられないし、あの二人と今後何らかの関わりをもつことも90%ない。普通に生活していれば、関わることは絶対ないのだ。
……いや、ちょい待て、絶対はちょっと言い過ぎた。定期落として拾われるかもしれないし。そうやって付き合うようになったとかいう話、私聴いたことあるし。定期一回落としたことあるから、ほんと気を付けないとなんだよな…。ちなみにそのとき拾って下さった心優しい方はイケボ(ここ重要)なお姉さん?(声は完全お兄さん)だった。

【梅田ー、梅田ー】

「綾、降りるで」
『あ、うん』

そんなことをしている内に学校の最寄り駅に着いてしまった。いやあ、今日もあんま退屈しなかったわ。ほんとイケメンさまさまだな。まあ足痛いけど。

純子の後ろに着き人混みを掻き分けて扉の横にいた爽やかイケメンくんの横を通り過ぎたら、やっぱりふわりと良いにおいがした。
イケメンはにおいまで完璧なのか。いやはや恐ろしい。


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