スカイライン | ナノ


「ついに今野にも、帰宅部卒業のときが来たのかなー?」
『押し付けた人が何を言うの…』
「そんなん知らんべー」

ニシシと笑うシロコを、精一杯の反抗としてジロリと睨んでから席を立ってやった。向かう先は体育館。昼休みの清水さんのお話というのは、男子バレー部のマネージャーをやってくれませんか、というお誘いの内容だった。

「あーあ、アンタもお人好しだねー、断りゃ良かったのに。なに、ほんとにやるつもりでいるわけ?」
『…いや。こんな時期だし、清水さんには悪いけど、多分見るだけにすると思う』

三年生だし、勉強もしないといけない。清水さん達は、いつ頃部活を引退するんだろう。というか、何故こんな時期にマネージャーの勧誘? それも三年の私に。荷物を肩に掛けながら考えを巡らしていると、「悪いと思うんなら、見学なんてしなけりゃ良いんじゃね?」とシロコが頬杖を付きながら言ってきた。一理ある。思わせ振りな行動はしない方が良い。

『…』
「…え、何か理由があるわけ?」

一理あることはあるが、私にも私なりの考えがあっての行動だ。シロコに焦点を合わすと、意味深に黙り込む私の気持ちを汲み取ったのか、彼女がきょとんと首を捻った。

『うーん…とね、』

肩越しに視線だけを後ろのシロコに向けて、自信無さげに笑む志織は、そっと語を連ねた。

『ちょっとだけ、気になってんだ、バレー部』






『わっ、…あっ、ぶなー』

体育館へと続く渡り廊下に降りるとき、段差があることをつい忘れていて、転びそうになった。一人で勝手に転びそうになるとか、うわ、何か恥ずかしい…。自己嫌悪に思わず顔を覆うと、耳に入ってくるボールの跳ねる音。元気な掛け声。手を下げて、顔を上げる。

『(…バレー、かあ)』

音の発生源である体育館を見ながら、ゆっくりと歩を進める。今度はつまずかないように気を付けて。

『(私もバレー、やってたな。もうやめちゃったけど)』

ああそういえば、烏野の男子バレー部といったら、前まで強かったって有名なとこだよね。なんだっけ、飛べない烏…だっけ。落ちた強豪?

『(でもそれもう、烏じゃないよね)』
「あ、今野さん」

体育館をのぞき込んだ私に清水さんが気付いて、こちらまで小走りで来てくれた。声を掛ける手間が省けた。間近で見ると、割り増しで清水さんは美人である。どうぞ、と彼女に言われて、恐る恐る体育館に入ると、直ぐ様ある一点から、目が、離せなくなる。

『(とび、おちゃん…?)』

何で飛雄ちゃんが、ここに…。息も忘れるくらい驚いて瞠目していると、私の心境を知るよしもない清水さんが今の状況を解説してくれる。“なんか色々あって、入部をかけて飛雄ちゃんと日向くんというあのオレンジ頭の子が試合している”らしい。ツッコミたいところは山程あるが、あえてツッコまないでおこう。

『(それにしても、よく動くなあ…、あ、すごい、敵かわした)』

ブロックに阻まれると予感したのか敵をかわして、日向くんが飛ぶ。相手チームの眼鏡くんが慌てて追ってブロックしようとするけど、間に合わない。日向くんの手に、ピンポイントでボールが来る。ボールが凄い速さで相手コートへと跳ねていった。…すごい、日向くんの驚異的なバネもだけど、飛雄ちゃんの、ピンポイントなトス。やっぱり、彼は凄い。

『(ドンピシャ、だ…)』

見ているだけで胸がどくどくと騒いで、思わず口角が緩んでしまう。ぎゅうと拳を握った。そんな面白い試合もあっという間に終了してしまって、セットカウント2−0で飛雄ちゃんチームが勝った。疲れはてて床に倒れ込む日向くんを横目に、清水さんにお礼を告げて私は体育館を後にした。






『っは、あぁ……』

来たときと同じように渡り廊下を歩く。右手を制服のリボンの上から胸に当てると、未だに胸が騒いでいた。あんな凄いものを見てしまったのだ、こうならない方がおかしい。

『(…あんなの見せられたらなあ…)』

ゆっくり歩みを止めて、後ろの体育館を振り返る。体育館からはまだ騒がしい声がした。

『(あんなものを見せられたら、もう、バレー部に入りたくなってしまうじゃないか)』


「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -