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「今野ー、お昼たべよー」

教科書だのノートだのを机に入れていると、斜め後ろの大分離れている席から私に声が掛かって、声の主である友達のシロコを見て、こくりと頷いた。周りはざわざわと騒がしくて、教室から出ていく人や私達みたいに一緒にお昼を食べるのか、机を合わせる人と様々だった。

「よいしょ、っと、借りますよー、佐藤くん」
『シロコ、その席は笹木くん』
「え、知らない知らない」

私の前の席に座って、朝に坂ノ下商店で買ったというあんパンと牛乳を咀嚼し始める彼女。刑事か!というツッコミはもういい加減飽きた。

「あ、唐揚げいっぱいあんじゃん。貰って良い?」
『良いよ』
「ありあひょー」
『(もう食べてるし…) ウチんちの唐揚げ、シロコ好きみたいだからおばあちゃんに多めに作って貰ったんだ』
「マジで? 有り難うございます敏子さん」

パンッと、手を合わせて頭を下げる。変なところで律儀な人間である。果たして唐揚げにあんパンと牛乳が合うかは分からないが、美味しそうに食べてくれているのでまあ良いだろう。おばあちゃんも喜ぶだろうな。シロコには、私だけじゃ悪いからと唐揚げのお礼にあんパンを少し貰った。あんパンなんていつ振りに食べたっけな。

「おーい白子ー、清水が呼んでるー」
「…今食ってんだけど、青木くんよ」
「いや知らねーよ!? ってか俺青木じゃねーし!」

シロコの本名は白子。誰かが“しらこ”と読むのを“しろこ”と呼び間違えたのが由来だ。その本人は不機嫌気に松木くんを睨みながら、イラついたように牛乳パックのストローを噛みつつ席を立った。そんなシロコを視線で追いかけると、入り口付近で待つ清水さんと目が合う。

『(な、なんだろ…)』

何となく居心地が悪い気がするも、自分から逸らすことは出来ずにいたのも束の間。シロコが清水さんに話し掛けると、彼女の視線は呆気なく私から外れた。

『…?』

清水さんとはシロコ繋がりで幾度か話したことはあるけれど、所詮それだけだ。彼女のことはあまりよく知らない。シロコはああいう性格だから、色々な人と仲が良いのだ。私と違って顔が広い。清水さんとは確か、同じ中学の出身だったか。

「今野ー、ちょっと来てー」
『え』

ちょいちょいと手を揺らすシロコを見て、思わず反射的な声が出た。何故突然私なんだろう。シロコの向こう側にいる清水さんも、レンズ越しの瞳でこちらを見つめている。清水の話聞いてあげてよ、そうストローに口を付けながら語を連ねるシロコに、私は戸惑いながらも箸を置いて、席を立った。


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