「今野さんって、影山と知り合いなんだね」
『え!』
「え?」
ロッカーに寄り掛かったまま、清水さんの言葉にギクリとした。その反動でロッカーが揺れて、くぐもった金属音が響く。そんな私を見て清水さんは、ブラウスを脱ぐその手を止めて首を傾げた。
「違う、ってことはないよね…?」
『あっ、うん! そうだよそう!』
「だよね」
ふふふ、と清水さんは軽く作った拳を口元に添えて、今野さんって面白いね、と言った後、バレー部のTシャツを着た。その笑った横顔がとても綺麗で、こんな美人の隣に居るのが私なんかでいいのか急に不安になった。ああ、美人に生まれたかった。清水さんが手でその黒髪を払ったとき、私には確かにキラキラした何かが見えたんだ…。
そんな彼女によると、私のジャージやらは来週には届くらしくて、それまでは制服か学校指定のジャージ、らしい。
「あ、」
『どうしたの?』
ジャージのファスナーを上げる華奢な手が、ピタリと止まった。今度は私が首を傾げると、清水さんはこちらを見る。そして、微笑んだ。
「私のことは、潔子で良いから」
『えっ、じゃあ、私も志織で良いよ』
「そう? ありがとう、志織」
『こ、こちらこそ、きっ、潔子、ちゃん!』
「呼び捨てで構わないのに…」
『ええっ』
眉を下げて残念そうにこちらを見て、潔子ちゃんは更衣室の扉を開ける。そんな彼女に着いていきながら、私はたじたじだった。そんな私を見て、良いよ、ちゃん付けで。と潔子ちゃんはまた笑う。てっきり大人しめな感じかと思っていたけれど、結構潔子ちゃんは積極的だったみたいだ。
『日向くんはMBなんだ、』
今度の青葉城西との練習試合のポジションや、部員の資料を潔子ちゃんに見せて貰った。まさか高さが重要なポジションに日向くんをとは。驚いた。でもまあ、囮として使うとしたら、そうなるか。そう思いながら資料から顔を離して日向くんを見ると、丁度モップ掛けをしている本人と、目が合った。あわあわと慌てながらもペコリと頭を下げてくれたので、こちらも笑って頭を下げた。かわいいなあ。
『…わ、この子、身長高いね。一年生なんだ』
「月島だね、あそこにいるよ。ほら、眼鏡の」
眼鏡と聞いて、さっき飛雄ちゃんをからかってた子かと合点がいった。潔子ちゃんに倣って見てみると、確かにさっきの長身の子が。何か、独特の雰囲気を持ってるなあと思いながら見ていると、またもや目があってしまって、そのときについ、レンズの向こうの月島くんの目にギクリとしてしまった。
「隣にいるのは山口。よく月島と一緒にいるから、仲良いんじゃないかな」
『そ、そうなんだ』
月島くんはこちらを見て、日向くんのように慌てることなく慣れた様子で、軽く頭を下げてきた。それに続いて、その隣の山口くんも。私も頭を下げ返しながら、同じ一年生でもこんなにも違うものかと、随分感慨深かった。月島くんは、ちょっと、クセがある子みたいだ。
『……仲良くなれれば良いなあ』
「大丈夫だよ。…でも、」
柔らかな笑みを浮かべた潔子ちゃんが、急に少し顔をしかめて、坊主の子に目をやる。
「田中には、気を付けてね、」
『え!?』
「いや、違うんだよ? 普通にしてれば良い後輩なの。だけど…ウザいの」
『ウザい…!?』
潔子ちゃんの口からそんな単語が出てくるなんて…。日向くんや飛雄ちゃんと一緒にいる田中くんを見て、ウザい子だとは到底思えなかった。外見は少し恐いけれど、楽しそうで、良い子そうだけどなあ。ウザいにも色々あるけれど、どんなウザいなんだろうか。ふむ、と考えていると、田中くんがバッと急にこちらを見て、「きっよっこさーん!!」と嬉しそうに大きく手を振ってきた。吃驚して、潔子ちゃんを見る。
「…行こう、志織」
『う、うん…』
嫌そうな顔をして、潔子ちゃんは私の手を引いていく。無視興奮するっス!! と後ろから聞こえてくる声に、潔子ちゃんの“ウザい”の意味に納得して、苦笑いがこぼれた。田中くんは田中くんで、クセがある子のようだ。月島くんとまた違った意味で。
『(そういうウザいか)』