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体育館近くの自動販売機に近寄って、硬貨を何枚か入れる。何か飲む? 奢るよ、と飛雄ちゃんを振り返ると、奢られるのが悪いと思っているのか何なのか、神妙な顔付きをして口をきつく結んでいる。正直言っちゃうと、その顔がちょっと、恐かったりなんかする…。

『ほ、ほらほら、押して押して』
「…ありがとう、ございます」
『どういたしまして』

身長の高さに見合った長い腕を伸ばして、飛雄ちゃんはボタンを押した。中学のときも飲んでいたヨーグルト飲料がガタンと取り出し口に落ちてきて、今もそれ飲んでるんだ、かわいいなあと思わず顔がほころんだ。飛雄ちゃんが飲み物を取ったのを見て、硬貨をまた何枚か入れて自分の分の飲み物を買った。暖かくなってきたけれど、夕方はまだ冷えるからあたたかいほうじ茶の缶を、両手で包んだ。

『…さて、何が聞きたい?』

私が校門へと歩を進めると、飛雄ちゃんも隣に並んで、私の速度に合わせてくれるのを見て驚いた。でも慣れないことをするから、足の動きが少しおかしい。そんな可愛い行動に笑みを堪えて、私から足の速度を速めてやる。そして一呼吸あけて隣を見上げると、彼は前を向いたまま呟いた。

「志織さんは、青葉城西に行ったって、俺聞いたんですけど」

言いながらこちらを見て、吸い込まれそうな真っ黒な目で見られる。飛雄ちゃんの目を見ると、嘘が全て見破られてしまう気がして、少し恐い。彼に限ってそんなこと、ある筈もないのに。それに、この後輩には嘘なんてそもそもつかないし、つきたくはない。

『うん、その通り。私は青城に行ったよ』
「じゃあなんで、ここに…」

飛雄ちゃんの声を遮るようにプシュ、と缶を開けて、ゆっくりと飲み口を口に運んで口を付けた。金属の擦れる小さな音を聞きながら、蓋を閉める。飛雄ちゃんは俯いて一向に口を開かない私を気遣ってくれたのか、自ら口を開いてくれた。

「去年の、ですか、」
『……やっぱり知ってたんだね』

まあ、地方紙に載せられてたみたいだからなあ、と他人事のようにぽつり、呟いた。飛雄ちゃんを見てみると、普段より表情が硬くて、私のことにそんな顔しなくていいのにと少しだけ嬉しくて、そして悲しかった。「小川先輩は、今、どこにいるんですか」今度は、中学校からの付き合いだった親友の居場所を問われた。

「まだ、青城に? 」
『うん。今は、男子バレー部のマネージャーやってるよ』
「!?」

飛雄ちゃんの顔が、驚愕の色に染まってこちらを向く。硬い表情じゃなくなって安心すると共に、飛雄ちゃんは顔によく感情が出るなあと微笑ましかった。

『私もまさか、あの子がマネージャーになるとは思わなかったよ』
「小川先輩って、ちゃんとマネージャー出来てるんですか?」
『ちょっ、飛雄ちゃんそんなこと聞いちゃうんだ…!』
「いやだって…」

本当に不思議だという感じの正直な彼の質問に笑ってしまって、手で口を覆った。校門が見えてきたことを確認して、手を下げてまた飛雄ちゃんを見上げる。

『ちゃんとやれてるみたいよ』
「連絡取ってるんですか?」
『うん、この前も愚痴られたよ』
「愚痴? なんの?」
『…いや、うん、ね、ウザいんだって、あの人が』
「あの人……ああ、及川さん、」

納得した様子で頷く飛雄ちゃんに、苦笑いして頷いた。中学の頃から紗綾香は及川くんをウザがってたから、飛雄ちゃんの記憶にもそれが色濃く残ってるんだろう。及川くんの話をしてから若干飛雄ちゃんも嫌そうな顔をしてるのを見て、私がもし後輩にこんな顔されたら凹みまくるなと、及川くんにちょっと同情した。まあ、及川くんは飛雄ちゃんにそんな顔されても、全然気にしないんだろうけども。
そんなことを考えていると、だんだんと不安になってくる。いやでも本人に聞くのは…と一人悶々としていると、飛雄ちゃんがどうしたんスかと高い背を折って私の顔をのぞき込んできたから、思い切って口を開いた。

『とっ、飛雄ちゃんは私のこと、嫌いじゃないよね…?』
「え」
『嫌いじゃないよね!?』
「……っス」
『(良かったけど間が恐い…!!)』


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