「え、マジで?」
『うん』
「マジで入るの? 男バレ」
『うん』
教室にはちらほらと日直やなんやらで、何人かいるだけ。いつもはシロコとどうでもいいことを話しながらお菓子を摘まんで、皆が教室から居なくなった頃に話を切り上げて一緒に帰っていたけれど、これからはそれが出来なくなる。それが、少し寂しい。
「やりたいことって、マネージャーだったの?」
『うん』
「理由は、最近入ったっていう一年?」
『う、うん。よく知ってるね』
「はっはっは、私の情報網なめんなよ」
白い歯を見せて笑った後、パキ、とシロコはお菓子を咀嚼する。いる? とシロコから一枚差し出されたので、素直に受け取ってお礼を言って、口に含んで歯を立てた。甘かった。
「バレーやってたんだっけ、今野は」
『やめちゃったけどね』
「ほー。いつから?」
『小学校の…三年ぐらいから?』
「けっこーやってたんじゃん」
『うん』
「…私もそんぐらいからやってたなあ、テニス」
シロコは中学までテニスをやっていたらしくて、たまにそういう話になって、いくらか話をする。何故やめたのかというのはシロコも話さないし、私もそんなに知りたいわけでもなかったので、特に追求したりはしなかった。…でも、いつも明るいシロコがなんとなく、そのときだけ口数が少なくなるから、何か悲しいことがあったんだな、とか、それでもテニスの話をするんだから、テニスが今でも好きなんだな、とかいうことは分かった。
「バレーって、何人でやるんだっけ」
『? 基本的に六人、だけど…』
「そっか、」
テニスってさ、基本一人じゃん? ダブルスもあるけど、それでも二人。前髪を手櫛ですきながらそう言ったシロコは、手を止めて西日の射す窓に目を細める。そして間をあけてから、続きをぽつりと呟く。
「だからさ、仲間で繋ぐことが出来るスポーツって、羨ましいなって、…たまに思うよ」
イヤに静かな口調で言い放った、そんなシロコの言葉を聞いてやっぱり何かあったんだと確信した。何かなければ、簡単に今までやっていたスポーツを突然やめたりしない。そんなの、私自身がよく知っている。びっくりして目を見開いていると、シロコが急に立ち上がって、「ほら、清水待たせたら悪いべ?」とニッと笑って、私の背中をぐいぐい押して廊下へと出した。
『え、あ! そう、だね、ありがとシロコ』
「いんや、どういたしまして。ほんじゃね〜」
『うん、…ばいばい』
笑うシロコを見て、胸に何かわだかまりのようなものを感じたけれど、手を振り返した。
いつものように呑気そうに、荷物を取りに自分の席へと戻っていくシロコの背中を、少しの間だけ、私は見つめていた。