100000打企画 | ナノ

▼恋せよ、老若男女

【人は見かけによらない】

こういう言葉があるけど、ほんとその通りだと思う。だって、私がこのフレーズの通りの見かけをしている人間だから。
秀徳は公立だし厳しいから髪は染めてないけど、ていうか染める気はないけど、元々色素が薄いんだか遺伝なんだか、(お父さんは何か全体的に薄いけど。あっ、頭部のことじゃないよ)小さな頃から私の髪の色は茶色だった。当たり前だけど、同じように目も茶色。まあ日本人の大部分は茶色らしいけどね。

っと、こんな感じで早い話、私は見かけヤンキーなわけでして。
それに無愛想+目付きが悪い、加えて上に二人も兄がいるもんだから男勝りな性格してて、ここまで見事にヤンキーだともう色々落ち込むんですよ。ここまでの文を見ればお分かり頂けるだろうけど、見た目ヤンキーでも中身は真逆。チキンでヘタレで自分で言うのも何だけど、小学校の頃から無遅刻無欠席という見事な優等生っぷり。自分でも真面目な方だと思うし、それは秀徳の入試で首席を取れたことにも出てると思うんだけどなあ。

「みょうじさん!」
『……うわあ、高尾クンだ』
「なんスかそれ! もうほんとひっどい!」
『お前等ん中の誰でも良いからさ、コイツ引き取れよ、絡まれるのメンドクサイ』
「俺のスキンシップをメンドクサイと!?」
『おーおーつーぼー、みーやーじー』
「はは、良いじゃないか、後輩になつかれてるんだぞ?」
「おーおー、ご苦労なこった」
『……(私より宮地の方がヤンキーくさいと思うんだけど)』

ひっついてくる高尾クンを引き剥がしてジト目で大坪と宮地を見た。宮地の方が物騒な言葉使うし、怖いし、数え切れないぐらい舌打ちだってすんのにな。あれなのか、イケメンだからか、べびーふぇいすとかいうやつ? 宮地とか童顔なだけじゃん。

「おいお前今すっげー失礼なこと思わなかったか」
『思ってないし。宮地のことなんて誰が考えるかボケ。てか思ってても言う訳ねーじゃんアホ』
「あ?」
「やばいw みょうじさんスゲエんだけどww 」

あ、やばい。宮地怖い。さっさと謝ろっかな。

こんな風にまあ、何でか知らないけど数ヶ月前からバスケ部の1年生に絡まれる(なつかれてはいないと私は声を大にして言う)のだ。始まりは私が宮地と同じクラスでやつの忘れ物を親切にも届けてやったことからである。まあそこらへんはめんどいんで以下略。

『すみませんでした』
「ぶはっwwww ちょっ、はやいはやいww みょうじさん最高w」
『(何故そうなる)』







『(あーあ、やっちまったなあ…)』

ていうか、いつ私筆箱にカッターなんて入れた?

人が全く居ない廊下をてくてく歩きながらそう自分の指を見つめる。ついさっき筆箱の中を漁っているとき、運悪く出しっぱなしにしていたカッターの刃で手をやってしまったのだ。大したことないし大丈夫でしょ、と放っておこうと思ったけれど思いの外深くやってしまったのか、どくどくと血は流れるばかりで止まる気配はない。確かに勢いよく切っちゃったけど。おまけに血が手首まで伝ってブラウスの袖を汚してしまう始末。加えてそれを見た近くのクラスメイトが騒ぎ出してしまえば、これはもう保健室に行かざるを得なかった。

近くの教室からは授業中だからか、先生の子守唄のような声が聞こえる。あー、これは古文のあのおじちゃん先生だわ。古文好きだし授業面白いけど、声があれだからいつも起きてんの大変なんだよな。

『すみませーん…』

……先生居ないのか。出張か何かかな、とかぼんやり思ってから、じゃあ勝手にやっちゃおうと適当に処置をした。小学生の頃から足元を良く見ないような子供だったから、いっぱい怪我していっぱい自分で処置をした。今でも時々躓いて転んで怪我したりするから、それを見た人に「喧嘩したんだヤンキー怖い」みたいに思われる。怪我した上に変な誤解されるとか踏んだり蹴ったりだな…。

『(あれ、誰か居るのかな…?)』

ふと周りを見回すと、ベッドの一つが備え付けのピンク色のカーテンで囲われていた。誰かなーと好奇心でカーテンに近付くと、隙間からちらりと鮮やかな緑色が見えた。……うん? ……緑色?
保健室ではあまり見慣れない色を目にしてまさかと思う。そっとカーテンを退けると、まさかまさかの予想的中。そこに背を丸めるようにして横になっていたのは、緑間真太郎くんだった。

『緑間くん…?』

思わずカーテンの中に入ってベッドに近付き、彼の名前を呼んでしまった。それが聞こえたのか否か、瞼がぴくりと震えてそっと開かれた。綺麗な翡翠色とご対面である。
この前彼とちょっとした事件があったので、私の肩は思わずびくりと震えた。

「…みょうじ、先輩ですか…?」
『え! あっ、ああ…そうそう。みょうじです。起こしちゃったね、ごめん』
「いえ、構いません」

そうゆっくり身体を起こす、どことなく気だるげな緑間くんに狼狽えながら取り敢えず近くの丸い椅子に座った。
彼は前言った高尾クンと同じくバスケ部の一年生。なつかれて?(高尾クンのように絡まれるというのはない)いるのかは不明だ。でもよく話す。彼は頭がとても良いから話す話は興味深いし、人を見た目で判断せずきちんと中身を知ってから判断してくれる。よく出来た子だなあと思う。

『どうしたの? 気持ち悪いとかで保健室来たの?』
「いえ…、頭痛がして」
『え、私話しちゃって大丈夫? 頭に響かない?』
「大分良くなったので、…大丈夫です」

目をしぱしぱと何回もまばたきを繰り返して目を細める緑間くんは、多分私のことが見えていないんだと思う。その証拠に、私はベッドの脇の椅子に座っているのに彼の視線は前方のカーテンの方にある。いやいや、どんだけ目ぇ悪いんだよ。

『緑間くん? 私こっちだよ』
「む…、そうですか。すいません、目が悪くて。眼鏡は……」
『あっ、良いよ、私取るよ』

彼の黒いフレームの眼鏡は、ベッドの脇、私と丁度反対方向に置いてある机の上にあった。眼鏡を取ろうとしたんだろうけど、彼の長い腕は眼鏡がある方とは真逆の違う方向に手を伸ばしていて、当たり前だろうが空を切った。それにおかしいなという風に眉をひそめる緑間くんである。マジかよ。それを見た私はえー…と思いながらも苦笑いしてから立ち上がる。

「ありがとう、ございます」
『いやいや、いーよいーよ』

あははー、と笑いながら出来る限りベッドに近付いて手を伸ばし、何とか眼鏡を手に取った。くっそ、腕の短さ痛感するわ。腕目一杯伸ばしたからいてーなーとか思いながらそれを表面に出さないようにして、目の前の後輩に差し出した。あ、眼鏡見えるかな?

『はい、緑間くん。……緑間くん?』
「……」
『え? 何、どうしたの……?』

眼鏡を差し出した方の手首をいきなり掴まれて、どうしたんだろうと動揺する。緑間くんと目を合わせようと思ったけれど、生憎髪に隠れて見えなかった。彼の眼鏡は未だ私の手にある。

こんなときにいきなりだが、実はこの前彼から告白をされたのだ。前述した事件とはこのこと。そのとき私は返事の言葉を誤魔化してしまって、まだちゃんと返事は出来ていない。そのこともあってか、彼に手首を掴まれているところはじんわりと熱くて、何だか息苦しくなる。私は、この感覚が何なのかを知っている。
そうやってお互い無言のまま暫く経って、授業終了のチャイムが鳴る。ざわざわと騒がしくなり始める外。ちらりと横目で扉の方を見て、どうしようかなー…てか何でこうなったの、と密かに溜め息を吐く、と。

『わ……っ!? み、緑間くん…!?』

いやいや、あかん、あかんて。

思わず関西弁になった。いきなりぐいっと手を引かれて至近距離に緑間くんの整った顔がきて、腰に腕を回されればそうなるのもしょうがない。そんな風に冷静に今の状況を分析する自分がいた。多分、今起きていることが非現実的で現実だとは考えられていないからだと思う。

『あああの、緑間くん? この体勢は非常にまずいからさ、取り敢えず落ち着こうよ』

いやいや私が落ち着けよ。そんな風に私なりに宥めようと努力するけど、決して離さないとばかりに腕にさらに力を込める緑間くん。あれ、逆効果? 緑間くん察してくれよ、みょうじさん今心臓ヤバいんだよ。

「……高尾に告白されたんですよね」
『へ!』
「……」

悲しそうに、苦しそうに目線を落とす彼は、不謹慎なのだろうがとても美しかった。睫毛の長さが目立つ。何で知ってんの。

そう、彼の言う通り私は高尾クンからも告白された。まあ、彼をそういう目では私は見られなくて、きっぱりと断ってしまったけれど。あの子は本当に凄い。私が断ったことで気まずくなるだろうな、それかもう話し掛けてくれないかもしれないとまで予想していた私の遥か右斜め上を行き、次の日からはまたいつもと変わらない態度で私の目の前に来たのだった。緑間くんとは込められた意味合いが違うが、彼も良く出来た子だと思う。タイミング的には、緑間くんよりも高尾くんの方が先だった。

『いや、あの、…誤解しないでね、』
「え?」
『確かに私は高尾クンから告白されたけど、きっぱり断ったよ?』
「え」
『いや、だって、緑間くんのこと好きだし? 告白されたときは、動揺しちゃったんだよね』

そういうことだから、一回離して?

真面目を擬人化したような緑間くんと、見た目ヤンキーな私がこんな状況になっているのを見たら、人はどう思うだろうか。
そんなことをふと思ってから、まあそんなことはどうだって良いや、とぼんやり付け足しをするように思った。そんな間にも間近にある緑間くんの麗しい顔はみるみる真っ赤に染まっていき、珍しく可愛い彼の姿を見ることが出来た。これはさっきやったことを盛大に後悔するパターンですぞ。


その後は、私の予想通り穴があったら入りたいみたいな感じの緑間くんがズーンと自己嫌悪みたいな状態になったり、いつから居たのか何故か保健室の先生の椅子に陣取っていた高尾くんが、「真ちゃんだいたーん」とニヤニヤしながら言ったりしたもんだから色々大変だった。



恋せよ、老若男女


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