100000打企画 | ナノ

▼こりゃ末期だ

ある部活がない土曜日。私とお兄ちゃんの家、すなわち赤司家にバスケ部の皆が遊びに来た。

「うっわぁ、大きいっスねえ!」
「青峰くん見て見て! 門だよ門! 」

皆はうちに来るなりその大きさに驚いていたけれど、私とお兄ちゃんは産まれてからずっとここに住んでいるから、その気持ちはよく分からない。他の家より随分大きいということは分かるけどね。

『あれお兄ちゃん、将棋やるの?』
「ああ、緑間と一局指そうと思ってね」
『そっか』

将棋の駒やら何やらを持って窓際に向かう姿を見送って、画面へと視線を戻す。今私は涼太くんと大輝くんと一緒にテレビゲームの真っ最中である。
コントローラーを握って使うキャラクターを選んでいると、二人が口を開いた。

「将棋かあ、俺ルールよく分かんないっスわ」
『はは、私もだよー。何か難しそうなんだよね』
「ボードゲームじゃオセロぐらいしか出来ねぇわ、俺」
「あー俺もっスよ」
『へぇ。オセロって面白いの? 私やったことないんだよね』

「マジすか!?」私の言葉に涼太くんは大層驚いたみたいで、目をまん丸くしてこちらを見た。大輝くんは、「まあ、赤司もやったことないとか言ってたしな」と画面を見ながら妙に納得したように呟いていた。

「それならオセロなら赤司くんに勝てますかね?」
「うーん、赤司くんが負けるところ見たことないし、もしかしたらそれでも勝っちゃうかもね」

テツヤくんが口にしたふとした疑問に、笑いながら隣のさつきちゃんがそう答えた。二人は私達の後ろのソファーに腰掛けている。
私もさつきちゃんに同意である。お兄ちゃんが負ける筈ないし、負けたところも見たことない。

「うっし、キャラ決めたしとっととやろうぜ」
「負けねぇっスよ〜」
「はっ! お前じゃ俺に勝てねぇよ」
「なっ…、やってみないと分かんないじゃないスか!」
『二人とも、私の存在忘れないでねー』

自分の頭上で、それも自分は眼中になしで話をされればそりゃ気分は良いものではない。誰でもそうだ。

『(いっちょやってやりますか)』

お兄ちゃんが無敗を誇っているなら、同じ血が流れてる私も大分勝負事に強い筈! と自分を鼓舞して、コントローラーを持つ腕の袖を捲った。






盤上に駒を置いて、少し間をとってから視線を上げる。向かいに座している赤司は、俺が駒を置いたことに気付いていない様子だった。
組んだ足に頬杖をついて、彼は双子の妹の方を見ている。

「赤司、お前の番なのだよ」
「ああ、すまない緑間」

声を掛ければすぐこちらを見て、考える間もなく駒を打つ。その駒の位置に、思わず顔をしかめてしまった。…既に俺の劣勢ではあったが。

「お前は事あるごとになまえを見ているな」
「はは、そうだな」

盤上に目を向けながら言うと、自覚のある返答が返ってきた。

赤司はふとしたとき、高確率で妹のなまえのことを見ている。それも柔らかな表情でだ。それは今も例外ではない。
ここまで穏やかな表情を赤司がしているのを、俺は他では見たことがない。

同じ妹をもつ身として、兄弟思いの良い兄だとは思うが…。

「ちょっ、青峰っち! そりゃズルいっス!!」
「はっ、しんねーな…って、げっ!! おいなまえやめろよ!」
『ふふ、これは勝負だよ大輝くん。やめろと言われてやめる馬鹿はいない!』

…ああやってなまえが男と親しげにしていると、赤司は変わる。だが今回は…。

「(いつもにもまして、目が尋常じゃないくらい怖いのだよ…)」

駒を淡々と置いて、盤上を見据えるその眼差しは、なまえが見たら怯えそうな程だ。赤司は妹の前では、そんな眼差し絶対しないのだろうから、そんなことにはならないと思うが。

恐らく、今回に関しては特別だろう。
なまえを挟むように青峰と黄瀬が座っている時点で、もう宜しくない。いかんせん、三人の距離が近過ぎるのだ。
元々少し動いただけでも身体がぶつかるような近い距離が、ゲームをしているせいもあって満員電車のようになっている。

「…投了。俺の負けなのだよ」

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テーマ「人外ファンタジー」
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