▼青春の一歩手前
頬杖をついて笑う彼の発言に驚いて、反射的に緑間さんの方を見る。助けを求めるような私の視線に、緑間さんはぎょっとした。
私の緑間さんへの視線を見て、「なー、真ちゃん」と同意を求める高尾さんの声に、緑間さんは「知らん」の一言。
そっぽを向いて眼鏡を押し上げるその横顔が、少し赤いように見えたのは、私の気のせい…かな?
「ほい、てなわけで、“くん付け”してみよっか」
『えええ…!』
「あ、もしかして俺等の下の名前知らない? 和成クンと、真太郎クンでーす」
「お前がくん付けをするな高尾、…気持ち悪いのだよ」
「ひっで、まあ良いけど。てか、真太郎クンってなげーな、真ちゃん」
「黙るのだよ」
…くん付け、か…。
別にこの二人なら呼ぶのは構わないけれど、改めてそう言われると困ってしまう。そうっと下に向けていた視線を上にやると、私に期待の眼差しを向ける二人。
こ、こんな見られながら名前を呼ぶのは…。
『…た、かおくん。み、緑間くん』
ああ、ダメだ、無理だ。すっごく恥ずかしい。
顔が熱くなって、それに泣きそうになって、声が震えてしまった。名前を呼ぶなんて私にはハードルが高過ぎるから、名字で呼んでしまったし…。
恐る恐る二人の顔を見ようとすると、その前に衝撃と温もり。
こ、れは…!? だっ、抱き締められてる…!?
『っ、わ! あ!』
「ああああ! もうなまえちゃん天使! マジ天使!!」
「っ、高尾おおお!!」
「さっきから煩いですよ! そこの三人!」
図書室だということを忘れて思いっきり声を出してしまったから、司書さんに怒られてしまった。
そんなこんなで昼休みは終わったけれど、緑間くんは私を抱き締めた高尾くんを、数日間許さなかった。
『(それにしても…びっくりしたなあ…)』
青春の一歩手前