summer time record | ナノ


「青峰っち! 1on1するっス!」
「メンドい、却下」
「即答!? なまえちゃん聴いた!? 青峰っち酷くないスか!?」
『私が知るか』

「うっわ、みどちんまた変なの持ってきてるし…」
『つ、つぼ…?』
「ふっ、只の壺ではない。今日のラッキーアイテム、常滑焼の壺なのだよ」
「……、割ってみていー?」

「テ、テテテツくんが死んでる!? 赤司くん!!」
「……」
「ふふ、これくらいのメニューで、そう簡単に死んで貰っては困るな。なあみょうじ?」
『私に振らないでよ』
「(…本当に死ぬかもしれない)」

巻き込んでくれなんて一言も言っていないのに、毎日毎日キセキの連中の何かしらのバカ騒ぎに巻き込まれた。
最初は実力主義のこの部で、何故こんなにもお気楽なのかと悪い印象しか抱いていなかったが、つい楽しくて、そのバカ騒ぎに笑ってしまっていた私が居て。
…いつの日か頭に浮かんだそんな感情も、萎んでいき終いには無くなってしまっていた。







『(……、あれは、幻だったのかな)』

いつ無くなるか分からない、とてもとても危うい、儚いもの。

今思うと、実際それは当たっていた。
酷く容易に、あの楽しかった毎日は崩れ去った。

もう一度皆で集まって、単純に楽しかったあの日みたいに、バスケをする彼等を見て、「あの頃もこんなことやってたね」って、さつきと笑え合えたら。

それが出来たら、どんなに幸せだろうか。


全中で初めて優勝したとき。

青峰と黄瀬は黒子を巻き込んで、盛大に喜んでた。あ、そこに虹村先輩も混ざってたっけ。
紫原は疲れたとか言ってお菓子を食べてたけれど、どこかその後ろ姿が嬉しそうに見えたのは、きっと私だけではないだろう。
緑間と赤司もいつもとあまり変わっていなかったように見えたけど、私は二人が少しだけ笑っていたのを、確かに覚えている。
…ああそうそう、さつきが泣いちゃったのも、大変だったなあ。

……でも、何でだろう。
私も嬉しくて嬉しくて堪らなくて、…堪らなかったことは覚えているのに、皆がどんな表情で喜んでいたのか、記憶のそこだけにもやがかかって思い出せない。

『何でだろう、なあ…』

あのときのキセキの笑顔も、「眩しいね」って彼等を見て泣いていたさつきの顔も、……何でだろう、思い出せないな。

250105

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