summer time record | ナノ


嫌でも耳に入ってくる、蝉の大合唱。
体育館の入り口から空を仰げば、大きい大きいソフトクリームを連想させる入道雲。雨が降ればいくらか涼しくなるのに、昨日も今日も見事な快晴だ。

『(雨、降らないかなあ…)』

そうは思うけど、雨が降る気配なんて全くない。まあ、夏だし、これが当たり前かなあ、なんて。でも、何でこう夏って、だるいくらいの快晴が続くんだろう。

『(まあ、それも気にならないんだろうなあ…)』

体育館内で走り回る先輩方と同級生達を見て、くすりと笑みがこぼれた。この世に生を受けてから、十五回も繰り返した、暑い暑い目が眩むような夏という季節。
そのなかでも、キセキの彼等と過ごしたあの一夏、十四回目の夏は、忘れたくても忘れられないものだった。







私は帝光中出身で、キセキの皆のことはよく知っている。
高校生、正確にはそれより少し前からなのだが、キセキの彼等は「バスケを楽しむ心」をなくしてしまった。
高校進学後、才能が大き過ぎる彼等には、「それ」はどうも簡単には思い出せないようだ。ああ、まったく、これだから年など取りたくはない。

「行こうか、」

円陣を組んでお互いを鼓舞した後、主将であった赤司くんのその言葉で、コートへと入るキセキの彼等。その後ろ姿を、私は何度となく目にした。試合が一度開始すれば、「幻の六人目」と呼ばれる黒子くんの不思議なパスで、キセキの彼等が動き輝き出す。
私の目には、黒子くんのそのパスがまるで、何かの合図かのようにも見えた。主将であった赤司くんの司令塔としての実力は、それはもう凄かった。
まるで、最初から試合の展開を把握していて、大人すら圧倒する作戦を前もって考えていたのでは、と疑うくらいだった。

「テツ!」
「青峰くん、」

試合終了後、笑顔で拳を突き合わせる光と影を見るのが、私は大好きだった。







中学時代、私は最初、三軍のマネージャーをしていた。だから、帝光中の実力主義の実状を何度となくこの目で見ていた。
選手層がこの上なく厚い帝光中で、実際に公式戦に出場し、活躍することが出来る選手はほんの一握り。努力すれば実力は上がるが、その努力も、生まれ持った才能の前では無力だった。
努力が実らず苦渋の選択を迫られ、バスケ部を辞めていった部員達を、私は何人、何十人と見た。才能の前では、努力なんて理不尽なもの。それは当然のことだ。選手達は皆、己のみを信じなけばならず、独りぼっちを強いられるのだ。

251020

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