summer time record | ナノ


私がマネージャーを辞めて帝光を卒業するまで、さつきと黒子以外のバスケ部の奴等とは、顔を合わせなかった。
…黒子は、三連覇を成し遂げたすぐ後から学校にあまり来なくなったらしい。元から影が薄くて学校ではあまり見かけなかったから、私は気付かなかった。
どうやら聞くところによると、引退の日も顔を出さなかったようだ。

『あぁ、誠凛ね。知ってるよ。あのチームは良いバスケやってたね。私も見たよ』
「……」

一度だけ、黒子の家にお邪魔したことがあった。さつきが何度か黒子の家に来たみたいだったけど、結局黒子は出てくれなかったことは知っていたから、少し罪悪感があった。
黒子は何故、私を中に入れてくれたんだろう。

『ねぇ黒子、私ね、…誠凛高校第一志望なんだ』
「、え……」
『キセキのみんなのあのプレーは嫌いだし、間違ってると思う。でも、バスケはやっぱり好きなんだ、私。
私はああいうチームを、マネージャーとして支えたいと思った』

俯いていた黒子が、ここでやっと顔を上げてくれた。彼の顔色は、やっぱり、良いものとは呼べなかった。

『ねぇ黒子、あんたはどうするの?』

頭を少し傾けて、私は黒子に問うた。







高校生になって、WCが開催されて。
それぞれ新しいチームでそれぞれの時間を過ごすうちに、試合を通してキセキの彼等は、もうすっごく遅いけれど、今になって「それ」をなんとなく気付けたみたいだ。


WCの会場に入ったとき、ふと中二の全中のことを思い出した。中三の全中は参加出来なかったから、私にとって中二の頃が最後の全中だ。
全中の会場はここまで大きくなかったけど、太陽を思わせるいくつもの照明。人が多いせいか、はたまた試合が白熱してるからなのか、少し息苦しく蒸し暑く感じた場内。どれもこれもが懐かしくて、昔の思い出がゆらりと揺らいだ。

でも、過去は過去だ。あの懐かしい心地好い日々は、もう二度と訪れない。

『(過去は忘れないで、でも過去に捕らわれないで。…進もう)』

――…上手くいかないもどかしさに、私は何度も何度も夢を見た。
今日このまま寝て、朝起きて明日になれば、あの頃のようなみんなをまた見られるんじゃないか、と。あり得ない淡い期待を抱いていた。

「なまえさん」
『ん?』
「あの頃みたいには戻れないですけど、今からどうにでも出来る未来が、僕等にはあります」
『……』
「僕達で彼等を変えましょう」
『!』

力のあるその声色に、思わず目を丸くした。いつの日かだか、どんよりとうじうじしていた黒子の面影は、そこにはない。
その瞳はどこまでも澄んでいて、真っ直ぐで、頼もしいなと思った。

「? は? 変える? 何をだよ?」
「……」
『……』

側にいた火神が状況を上手く理解出来なくて、黒子と私の顔を交互にしきりに見やってたから、雰囲気ぶち壊しだったけどね。
まあ、その方が私達らしいというか。なんていうか。

250501

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