挑発的 | ナノ


◎いつまで保つか見物だな


私の母と宮地さんのお母さんは、いわゆるママ友とかいう関係にある。私が秀徳を受験する際、彼のお母さんにも良くして貰ったし、彼にも勉強を見て貰ったりもした。その関係は、宮地さんが秀徳を卒業した今でも変わっていない。

「マジかよ。あの高尾が」
『…ほんとに困ってるんですから、私』

そんな関係だから、宮地さんには気兼ねなく、こんな風に悩みを打ち明けることが出来る。彼は現在大学二年生。高校生のときからさほど身長は伸びていないが、前より随分纏っている雰囲気が変わったと感じる。何か、雰囲気が柔らかくなったのだ。

「、アイツがねぇ…」
『…高尾のせいで、前みたいに軽口たたけなくなっちゃったんです。友達には、“何か変わったね”とか言われるし…。
もう、私にはアイツが何を考えているのか…』
「……ふうん。で、なまえは高尾になんて答えたんだ?」
『え?』

カラン、と氷がなった。宮地さんはコーヒーカップに口をつけながらも、確かにこちらへと視線をやってくる。

……そう訊かれてみると、私は高尾の告白に返事をしていない。そう思うと、一気に上手く言い表せない気持ちになった。申し訳ない気持ちや焦り、不安、嬉しい気持ち。色々な感情が、ごちゃ混ぜだ。
でも、私には、…告白の返事を言いたくても今は言えないのだ。

『…、何も、言ってません』
「……」
『分からないんです。自分が。…高尾は一年生のときから友達で、今までそれで上手くやってきて。今さら好きとか言われて、…嬉しいけど、なんか今までのことを否定されたみたいで、嫌で。
……これで私が答えを誤れば、今までの心地良い関係には戻れないかもって、怖くて…』

自分の発言にどこか自信がなくて、だんだん顔が下に下がる。結果的に、自分の膝を見ることになった。
……、果たして宮地さんは、こんな私に何と言うだろうか。怒るだろうか、同情するだろうか、…それとも。

「……お前は、」
『……』
「高尾のことをまだ全部、分かってないんだな」
『、え?』

もっと重い口調で言われるかと身構えていたのに、彼は存外軽い口調で、そんなことを言ってきた。それはもう、下らないことでも言うかのように。カップをソーサーに置く宮地さんに、一体どうゆうことかと詰め寄れば、ぴっと目の前に人差し指が突き出された。その手は、バスケに明け暮れていた高校時代と変わっていない。

「一つだけ言っておく。お前が思っているほど、高尾は器用じゃないからな」
『はぁ?』

アイスティーを飲み込んでから、挑発的な笑みを浮かべている彼を見る。この笑みは、何かを企んでいる顔だ。未だ怪訝げに眉を寄せる私を前に、目の前の先輩は、悠々と頬杖をつく。

「一年からずっと一緒に居ても、分からないこともあるもんだな」
『(もっと分からない…!!)』

微笑を湛え、外の景色を見ながらカップに口をつける宮地さんは、見ていて非常に綺麗だが、どこかその笑みが腹立たしい。

あの高尾が、私が思っているほど器用ではない? そんな馬鹿な。何でも笑って、軽くやってのけてしまう彼が、器用ではないなどあり得ないじゃないか。

「…ま、いつまで保つか見物だな」

251210



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