挑発的 | ナノ


◎二週間以内にお前を落とす


「……おい、」
『……』
「…おい、みょうじ」

自宅のソファに座る俺の胴には、何かにすがるようなみょうじの両手が回っていた。数十分前、いきなり彼女が家にやって来たかと思ったら、言葉を交わす間もなくみょうじに抱き着かれたのだ。当然驚いたが、玄関にいつまでも居るのもどうかと考え、リビングへと移動した。そして今に至る。
先程から絶えず何度も声を掛け続けているが、当の本人は俺の腕に額を押し付けたまま、何も答えない。そのどうすることも出来ない様子に小さく溜め息を吐くと、突如として、ポケットに入れておいた携帯が震え出した。みょうじに抱き着かれているので少し手こずりながらも、どうにか携帯を取り出し、ディスプレイを確認してその名を呟く。と、小さくだが、確かにみょうじが震えた。…これは、高尾と何かあったな。

「もしもし、」
《あー、真ちゃん? いきなりでわりぃんだけどさ、もしかして…なまえ、そこに居る?》
「…ああ、居る」
《やっぱか…。話せたりする?》
「…無理、だろうな」

高尾の声が微かに聞こえたのか、先程からふるふると、嫌だと言わんばかりに首を振り続けるみょうじ。そんな様子をレンズ越しの視界の端に入れながら、「お前、みょうじに何かしたのか?」と高尾に問い掛けた。

《いや、そんな大したことはやってねぇぜ? ちょーっと壁に追い込んで告白しただけなんだけど、何でかなまえ、俺のこと恐がっちゃって。いやあ、何でだろ。真ちゃん分かる?》
「それだろうが、馬鹿が」

呆れ混じりに溜め息を吐きつつ、そう高尾に指摘すると、「え、マジで?」などと笑いながら返してきた。コイツは人のことをよく分かっているのか、分かっていないのか、よく分からん。

《ちょっとなまえに言いたいことあるんだけど、真ちゃん変わってくんね? 話せなくても良いからさ》

そう言ってきた高尾にもう一度溜め息を吐いて、「みょうじに代わる」と返した。

「みょうじ、高尾だ」
『…いや、』
「お前は聴くだけだ。何も話さなくて良い」
『……』

俺のそんな声を聴き、ゆっくりとした動きで俺から離れ、おずおずと俺の差し出す携帯を受け取るみょうじ。彼女が携帯を恐る恐る耳に近付けるのを見届けて、ソファに座り直す。まったく…、手の掛かる奴等なのだよ。眼鏡のブリッジを押し上げて、静かに息を吐いた。飲み物でも出すか、と俺が腰を持ち上げると、すぐに高尾がみょうじへと爆弾を投下した。今日は生憎の雨だったので、余計な音は聴こえない。不運にも、高尾のその言葉は俺の耳にも入ってきた。アイツは一体、何を考えているのだよ。

《…二週間以内に、お前を落とす》

250923



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