雑食 | ナノ

もう毎日恒例となっているかもしれない。平門さんに後ろから頻繁に声を掛けられる。それは第貳號艇副艇長という役職故のものもあるし、よく分からないものもある。私にはあの人が何を考えているのか分からない。一応、一応同期だが。

「ナマエ」
『何でしょうか、平門さん』
「いや、呼んでみただけだよ。特に意味はない」
『はあ…(じゃあ呼ぶなよ)』
「ところでナマエ、日頃から気になっていたんだが、お前は俺と同期なのに何故敬語に敬称なんだ?」
『…駄目、でしょうか?例え同期と言っても職務上、私は貴方の部下。上司の貴方には尊敬の念を込めて、敬語と敬称でお話した方が良いと判断した次第です』

いつもニコリと微笑んでいて、何を考えているのか全く分からない。すぐ考えていることが表に出る與儀とは大違いだ。與儀の方がよっぽど人間味がある。燭先生が平門さんのことを忌み嫌うのも理解できるが、どうも私は、この人のことを嫌いになれない。何故だろうか。

「なるほど。ナマエらしいな。じゃあ、俺がその敬語と敬称を取っ払って欲しいと言ったら、どうする?」
『平門さんがお嫌なら、一度考えてみますが…。理由によりますね』
「理由、か…」

平門さんは敬語と敬称がお嫌いなのだろうか。でも、與儀もツクモちゃんも敬称で呼んでいるし、第一、彼だって燭先生と話すときは敬語だ。しかも敬称で呼んでいる。あ、そうだ、平門さんは人を弄るのが好きなんだった。
燭先生の反応を見て楽しんでいるのだから、大分歪んでいる。ってことは、あれ、もしかして、私が平門さんの反応見て楽しんでるって誤解されてる?え、それってヤバく…って、あ。燭先生に資料持ってくるよう言われてたんだ。早く行かないと怒られる。

『平門さん、私、燭先生のところに今すぐ行かなければならないので、この話はまたの機会でも宜しいでしょうか』

「すみません。それでは失礼致します」と平門さんに背を向けると、また名前を呼ばれた。また何なんだろうか。人を弄るのも大概に…と内心苛立ちながらも、「何でしょうか」と平常心を崩さないように振り向くと、思っていたよりも大分近くに顔があった。
こ、れは、流石に近過ぎ、ではないだろうか。

「っひ、平門っ、さん…?」

至近距離で見つめられて、心臓が派手な音をたてて跳ねる。逃げようと足を動かすが、いつの間にか腰に回されていた腕により、逃げられない。え、何、これ。身体が、離れない。目が、逸らせない。身体が火照るのを感じながら固まっていると、クスリと余裕そうな平門さんに笑われて、唇が静かに重なった。

『…っん…は…!っ…!』
「おっと…」

初めてのキス。しかも一切の遠慮無く、自分以外の熱い舌が自分の意思とは関係無く、己の口内を蹂躙する。執拗に絡められる。身体に力が入らなくなり、平門さんに全体重を掛けてしまう。「離れなければ」とふわふわした頭で思うが、酸素が足らない。私は、必死に胸を動かして肺に空気を送り込むだけ。平門さんが、「理由、分かっただろう?」と私の耳元で妖しく囁いた。

250806

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テーマ「人外ファンタジー」
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