雑食 | ナノ

天井を仰げば、きらきらと光る埃と、隅の方には柔らかそうな赤毛が視界に入った。離れたところからは上級生のものとみられる話し声が聞こえてきて、そのささやくような声も、笑い声も、今の私には眠気を助長するものでしかなく、ふわふわとした雰囲気に気持ちが良くなってきた。

グリフィンドールの談話室にある窓辺のソファが、私のお気に入りの場所。基本的に日が射す窓辺が好きで、私は本を読むのも嫌いではないので図書館の隅っこにある、日が当たる窓辺の椅子もなかなか静かで好きなのだけど、なんせ図書館にはマダム・ピンスがいる。図書館で寝ようものならただじゃ済まされないだろう。いや、読書はちゃんと好きなんだけどさ、眠気には...ねえ? やっぱり人間勝てないよ。だから寝ても誰からも何も言われない談話室のソファは最高の場所なのだ。いつも私がそこに座っているから、そこはもう私専用のソファと化していると言っても過言ではないかもしれない。基本的に私は外より中派なので、談話室か自分のベッドの上にいるか、図書館にいる時間が大幅に多い。行動範囲が極めて狭いのだ。ソファ陣取っちゃって申し訳ない。
まあ、自分の行為を改めるつもりは毛頭ないんだけど。

...で、そんな話をわざわざ持ち出したのだから、今もそのお気に入りのソファにいる訳だけれども。良いお天気でいい具合に日が射してきて、ぽかぽか心地良い気分になって瞼が重たくなってくる。おまけに、今も現在進行形で私の頭を撫でている手が、眠気に拍車を掛けてきやがる。

『んーー...』

眉を寄せて、その手から逃れるようにソファの上で身じろぐと、一度手の動きが止まったかと思いきや、すぐにくすりと笑う声が頭上から聴こえてむっとした。手の主はやめる気はさらさらないようで、懲りた素振りも見せずに今度は髪に指を入れてゆっくり、ゆっくり梳いてくる。その際微かに首を撫でるように触れる指がこそばゆくて、ぴくりと閉じている瞼が震えた。触るか触らないかの微妙な間を見極めて、大胆に触れてこない辺りがまた、羞恥を誘ってくる。...コイツのことだ、確信犯であろう。

『...やめてよ、ジョージ』

眠いのは変わらずなので、いつもより舌っ足らずで自分でも聞き取りづらかったなと、ぼうっとする頭の片隅で思った。ソファの傍らに座っていたジョージには、そんな聞き取りづらい声でも聞き取れたのだろう。いつものように、何か面白そうなものを見るように目が少し細められていて、口角もゆるりと上がっていた。悪戯をするときと同じ顔だ。

「なんだよ、好きだろう? 髪触られるの」

話している間も手を止めることなくにやにやと触れていた髪の一房を手に取り、くるくる指に巻き付けたりと人の髪の毛を好き放題弄ってくる。それを何度か繰り返されて煩わしかったから、眉をひそめて唸ってから彼の手を掴んでやった。思いの外すぐにジョージの手は離れて、そのまま私はソファから身を起こして彼を睨んだ。ちょっとだけ、ジョージよりも私の方が目線が高くなった。

『やーめーてーよ』
「顔赤いぞ」
『...ジョージが変な触り方するからでしょうが』
「変な? 変なって?」
『......』

にやにや楽しそうに笑うジョージは、本当に意地が悪い。自分の顔の温度がじわじわと上がっていくのを感じていると、彼の笑みもじわりじわりと深まっていった。

「ちゃんと言ってくれないと俺、分かんないぜ?」
『......』

後ろはソファで前はジョージ。逃げられない状況に私が真一文字に唇を引き結んでいると、それに焦れたのか掴んでいたジョージの大きな手が不意にするりと動いて、あっという間に指と指とを絡ませて手を繋がされた。所謂、恋人繋ぎである。いきなりのことで、すっかり油断していた。

『ちょ、ちょっと...!』
「ん?」
『うっ...』

こてん、と首を傾げてくるジョージはずるい、ずるすぎる。絶対これ分かっててやってるな、と赤く染まる頬を引き攣らせば、彼は得意げに笑った。ああほんとずるいなあ、私はこの得意げに笑う彼が好きなのだ。下を向く顔をそろりと上げてジョージを窺えば、言ってごらん、という風に優しく微笑まれた。

『ジョ、ジョージが...』
「俺が?」
『っ......』

やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしくて、だんだんか細くなる私の声を聞き取ろうとしているのか何なのか、ジョージの顔が近くに寄せられた。恥ずかしさをもみ消す為に側にあるクッションをぎゅっと掴んで、やっとのことで喉から言葉を絞り出した。

「ジョージ、だから...私は赤くなるのよ...!」

悪いかしら!? もうヤケだ、と思いながら威張るようにそう言い放つと、ジョージは呆気にとられた様子で目を瞬かせて、その後ぶはっと吹き出して笑い始めた。拳を口に当てて、肩を揺らすその姿にますます恥ずかしくなってむっとすると、すっと伸ばされた彼の腕に肘辺りを掴まれる。特に抵抗するわけでもなくされるがままになっていると、優しく引かれて腕の中。あやすように背中を撫でてくるその手は酷く暖かくて、どうしようもなく安心する。

「ははっ、何でそんな偉そうなんだよ」
『...うるさい』
「謝るからさ、機嫌直してよナマエ」
『いやだ』
「仕方ねぇなー」

言葉とは裏腹に、ジョージがくすくすと楽しげに耳元で笑うから、くすぐったくて恥ずかしくてよく分からなくなった。そこでふと燃えるような赤毛が目に入って、この色と同じくらい今顔赤いんだろうなと思うとまだ恥ずかしくなった。

「...何なのあれ」
「さあね。あ、アンジェリーナもあれしたい?」
「馬鹿言わないでよ、ここ談話室よ」
「じゃあここじゃなければ良いって...」
「はあ、フレッドうるさいし邪魔」
「邪魔!?」

270901

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