雑食 | ナノ

私的な解釈かもしれないけど、3月は別れの月、そして4月は出会いの月だ。附属中の三年である私は、同じ学校の附属高に進学することが去年からもう決まっていて、受験勉強とは縁遠い三年生であった。それでも、みんながみんなエスカレーター式に附属高に進学する訳ではなくて、頑張っている子もやっぱりいた。

入試の日も過ぎ去り、合格発表の日もあっという間に過ぎ去った。高校から立海に外部入学する人達と合格発表の日にすれ違ったけど、みんな嬉しそうで、安心したような顔をしていた。それが少し羨ましいな、なんて思ったり。勉強もしないで高校にエスカレーターで行く私に、そんなこと思う資格ないんだろうけど。

『(卒業ねぇ…)』

ぼうっと適当に、なんにもしないで流されるまま毎日過ごしていたら、あっという間に卒業式の日になってしまった。未だに中学をこれで卒業するなんていう実感がイマイチわかない。高校生になっても今と変わらない通学路を歩くのは、何だかつまらないなと思った。

『(あちゃー、早すぎたか)』

そうまだ誰も居ない通学路を、とぼとぼと一人で桜並木の横を歩いていく。桜綺麗だな、なんて周りを時々思い出したように見渡しながら。どっかで聞いた話だが、桜の花弁だけでなく、桜の皮からもあの鮮やかなピンク色がとれるらしい。いやあ、すげぇなあなんてそんな驚いてもいないのに口にしたのを覚えている。
そんな感じでゆーっくり歩きながら、ふと前方に目をやると、同じ立海の制服が見えた。男子生徒である。

「やあ、」
『げっ…』
「は? げって何、え?」
『(うわ、めんどくせぇな…)』
「お前今俺のことめんどくせぇとか思っただろ」
『いててててて!!!!』

何で考えてること分かんだよ!
いつも貼り付けている笑顔を取っ払い、一気に私との距離を詰めてドS顔で私の頬を掴むパワーS(ここ重要)な幸村は、大分迫力があると思う。そしてとても痛い。どうやら、美人が怒ると怖いというのは迷信ではないらしい。…ていうか、何でこの人こんな時間にこんなとこ居るのさ。そんなこんなでどうにかこうにかして幸村の手を振り払い、距離をとった。

『やめろ痛い!』
「痛くしてるんだから痛くなくちゃ困る」
『でしょうね!』

何てことはないという風にさらりとそんなことを、いつものように腕を組みながら言ってのける幸村。くっそ、人のほっぺたつねりやがったクセに涼しい顔しやがってからにこいつ…。

『いってぇ……何でこんなとこ居んのさ、幸村』
「はっ、俺がどこに居たって俺の勝手だろ」
『……(何で私、こいつに鼻で笑われないとイケナインデショウカ)』

もう良いや。嫌な奴と会ったせいで、綺麗な桜をしんみりとした気持ちで眺める気もなくなってしまった。早く学校に行きたくて、幸村を置いてさっさと行ってしまおうと足を早めれば、当たり前じゃないかと言わんばかりに幸村が私の横に着いて足並みを揃えてきた。うんまあ、足短いから最初っから置いてけるとか考えてないけどさ! けっ!

『……』
「……」
『……(何故無言…)』

そういえばこいつ、私と同じエスカレーター組だよね…高校でもまたこいつの顔見ないといけない訳か。やだなあ…。こうなったら、同じクラスじゃないことを全力で祈るしかないか。そんなことをどんよりとした気持ちで思いながら、こいつ顔は綺麗なんだからもっと性格をだね…と、幸村の顔をちらりと見やると、彼の顔が何でかこちらに向いていた。

「……」
『(えっ、何でこっち見てんの)』
「……ほんとお前はだらしがないね」
『ぐえっ!?』

いきなりネクタイ掴まれて首絞められた! 必死にもがいてパワーSを誇る手を引き剥がし、「絞まってるわあほ!!」と若干涙目になりながら声を張ると、「ああごめんわざと」という返答がにっこりとした笑顔に添えられて返ってきた。もう何なんだコイツ…!!

「でもさ、お前ほんとだらしがない」
『げほげほ! うえ…っは、はあ?』
「ちょっと貸して」
『は? うわ…っ』

ぐいっと腕を凄い力で幸村の方へ引き寄せられて、ぐらりとバランスが崩れる。なんだコイツ強引過ぎるだろ…。思わずきつく閉じてしまった瞼を再度開いたときには、目の前に居た幸村は既に私の後ろで私のネクタイに手を掛けていた。はあ? と勝手にこいつ何やってくれてんだと思って顔を上げると、端整な顔がとても近くにあって、思わず固まった。シュルシュルと布が擦れる音を聞きながら、呼吸が止まって顔が火照ってくる。

『(ち、ちか……っ)』
「終わったよ……って何バカな顔してんだよ。あ、バカだからか」
『…………』


私 の ト キ メ キ を 返 せ


勝手に自己簡潔しやがって、馬鹿にするような顔をして仕舞いにはぎゅっと思いっきり私のネクタイをしめてから幸村は私を解放した。ぐるじい…。そのとき私が何もないところで転けそうになったのを見て、目の前のイケメンくんは盛大に鼻で笑いやがった。

「はっ」
『(……ほんとみんな、外見だけじゃなくて中身も見ろよ…)』

この世界は理不尽である。

世界の理不尽さをしみじみと感じながら、苦しい首もとを緩めようと目線を下ろすと、見事なピシッとしたネクタイが。うわ、流石神の子。いや、ネクタイ結ぶのに神の子云々は関係ないと思うけど。でもいやあ、手先器用ですね。けっ!

「みょうじ、お前内部推薦組だよね?」
『…そ、そうだとしたら?』
「ふうん」
『(こっえぇぇぇ…)』
「……ふふ、多分、また同じクラスだよ」
『はあああ!? な、何で!』
「職員室で見たから」
『  』
「ふふ、また一年よろしくね」

そう麗しく微笑んで私を置いて学校へ向かって行った幸村の背中は、心なしか嬉しそうだった。いやいやそんなの私の気のせいですねははははは。







教室で会った友人に朝、私と幸村が一緒に登校して(いるように見えた)いたところを見たと言われて、卒業式前に高校生活に大いに絶望していた私は付き合ってるの? と友人に不思議そうに訊ねられて、HPがゼロになった。

250318

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