雑食 | ナノ

「お帰りメェ」
「お帰りメェ」
『ただいま』

入り口に居る二体の羊に笑い掛け、奥へと進む。平門に報告をしに行かないといけないが、まず葬送で思いの外出た汗を流したい。別にシャワーの後に報告をしに行っても、何の問題もない筈だ。ていうか、こんなボロボロな格好のまま平門に会ったりしたら、何をされるか分からない。あのエロ眼鏡が。







『平門、居る?』
「ああ。入れ」

「お邪魔しまーす」と一応断りを入れながら、ガチャっと豪快にドアを開ける。我ながらお邪魔する気全くないよな、って思ったりする。まあ良いか、平門だし。

「葬送のことなんだけ、…ど」

顔を上げて平門を視界に映すと、その格好に目を見開いた。当の本人はいつものように悠々と微笑んでいる。

『…あのさあ、』
「ん?」
『シャツ全開はやめようよ、全開は』

首を少し傾け尚も微笑んでいる平門に近付き、手を伸ばす。軽く溜め息を吐いて、一つ二つと釦を留めていく。胸の辺りの釦を留め終わったとき、私より一回りぐらい大きい手が重ねられて、「寝苦しくなるからこれで良いよ」と制止が掛かった。それに少し間を空けて、「分かった」と返して離れる。
今も全く隠せていない色気が駄々漏れだが、まあ良いだろう。離れるときにふわりと香った優しい匂いに、「お風呂入ってたの?こんな時間に?」とソファに腰掛けながら平門へと問い掛けた。私も大概だが、もう深夜の二時近くを回っている。彼も葬送か何かの仕事があったのだろうか。

「人のことを言えないだろう、ナマエもさっきまで入っていたのに」
『……何で知ってんの』
「…何だその視線は。安心しろ、覗いてなどいないよ。ただ…」

そう平門はもったいぶるように言葉を濁し、ゆっくりとした動きで私の隣へと座った。少しだけ、自分の身体が平門の方に傾く。尚も彼の言葉に疑念の色を浮かべ、彼を見上げる私に、平門は口角を僅かに上げた。
「髪が濡れている」そう言ってクイッと優しく腰が引き寄せられて、身体が密着する。お互い先程まで入浴していたので、身体が熱い。目を細めた平門が、少し汗ばんだ私の髪を手櫛ですく。

「風邪をひくぞ」
『…知らない』

そう答えると平門の顔が近付いてきたので、自然と瞼を閉じる。このどうしようもない気恥ずかしさは、何回この行為をしても未だなれない。いつまで経ってもこない温もりに、不審に思い、瞼をそうっと開く。至近距離の平門が笑ったかと思うと、噛み付くように唇を重ねられた。
時間差を利用しやがったので、驚きから私は何も抵抗が出来ない。やっと離れたかと思うと、「怪我をする程葬送を頑張ったみたいだからな、ご褒美だ」身体の傷を優しく撫でられて、平門がそう微笑む。これは、…怒っている。明日私は、果たして生きているだろうか。

250912

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