豹変した後輩 | ナノ

すみません、俺あきらめ悪いんです

適当に昼食になりそうなものを買って、購買から帰って来てみると、俺の机の下に何かが居た。見覚えのある背格好に、眉をぴくりと動かす。
パックの飲み物を袋から取り出し、ストローで啜りながら自分の机に近付いた。
…何やってんだ、コイツ。

「何やってんだお前」
『ににに虹村主将静かに!!バレます!!』
「はぁ?」

身体を丸まらせて俺の机の下に隠れる、なまえが居た。ていうか誰かつっこめよ、おかしいだろ、同じ学年だとはいえ違う組の奴が居るんだからよ。しかも何でか人の机の下に。避難訓練かよって。
購買の袋を机上に置いて、椅子にドカッと腰を降ろす。俺のその行動になまえが何か文句を言っていたが、そんなの知ったこっちゃねぇ。第一ここは俺の席だ。

「お前ほんと何やってんの?」
『逃亡中です!!』
「逃亡?誰からだよ」
『そ、れは…ですね…』
「…赤司か」

パンの袋を開けながら推測を言うと、視界の端でびくりと肩を跳ねさせ、無言で顔を背けるなまえの姿が見えた。言わなくても丸分かりだな。足を組んで頬杖をつきながらパンに食い付く。

「後輩から好かれるなんて、嬉しいことじゃねぇか」

俺のその言葉を嫌味として受け取ったなまえは、ムスッとした顔をこちらに向けてくる。あ、ものを食べながら話すなんて下品な真似、俺あんまやらねぇかんな。

『他人事だと思って…!!』
「実際そうだかんな」
『ほんと助けて下さいよ! この前までは本当に可愛い真面目な後輩だったんですよ!? それが何かこんなことになっちゃって…、ああああああ!!』
「落ち着けよなまえ。赤司のアレは、……あ」
『あ?』
「あそこ、赤司が居る」
『  』

気が動転でもしたのか、ヒュッと喉を鳴らして盛大に頭を机に打ち付けるなまえ。痛みに耐えながらもどうにか机から抜け出して、床にうずくまる。土下座のようにも見えるその姿を目にして、何となく踏んでやりたいと思ったが、流石に女子にやるのはアレかとやめておいた。男なら愚問だが。
あ、でも、四つん這いで教室から出て行く姿は、流石に笑えた。






虹村主将の所属クラスから出て、赤司くんが居ないか警戒しながらやっとのことで、中庭まで来ました。右を見て左を見て、もう一度右を見る。目を引く赤色が居ないことを確認して、備え付けのベンチへと腰を降ろすと、気を張り過ぎていたのか、身体が予想以上に疲労しているのを感じました。大きく伸びをして、肩を揉みながら腕をぐりんぐりんと回します。

『ふう…(っていうか、三年の階にまで普通に来るとか、どんだけ肝据わってるんだって話ですよ。私ならあんな真似絶対無理ですね。…まあ、取り敢えず、)…やっとあの赤司くんを巻けまし』
「巻けてませんよ」
『っつ!!!』

微笑を孕んだ言葉と共に、いきなり背後から肩に手を置かれたものですから、びくうっと身体を揺らして息を飲みました。そうっと、警戒しながら後ろに視線をやると、それはそれは綺麗な笑みを浮かべた赤司くんが立っていました。
恐ろしさから、ごくりと喉が上下します。…私には悪魔以外の何者にも見えないのですが。

『な、なななななんで…!!』
「先輩を尾行するなんて、造作もないことです」
『いやいや先輩を尾行するとか普通に考えておかしいですよね!?』

さらりととんでもないことを言い出した後輩に、そう声を張り上げます。
ふむ、という風に顎に手を添える動作から見て、赤司くんの常識は世間一般常識の範疇を超えているみたいでした。まあ、彼の家柄自体一般ではないようですから、無理もないかと思いますが。

…そんなときです。
不意に赤司くんがこちらを見たかと思ったら、突然ぐい、と顎を掬われました。思考回路が一瞬停止して、「え…、」と目を丸くすれば、後輩の端整な顔が近付いてきます。彼のその唇が、滑らかに言葉を紡ぎ出します。

「先輩は、俺のことが嫌いですか?」
『っ、いや…、その…決して、嫌いとかそういうわけでは…』
「嫌いではないということは、好きということですか?」
『う…、っいや、そういうわけでも…』
「…ふふ、まあ、良いですけどね、」

愉快そうに笑って、赤司くんは離れていきます。ほっと、強張っていた身体から力を抜くと、肩を抱かれて不意打ちで耳に唇を押し付けられました。
無意識に、ひゅっと喉が鳴ります。

「すみません、俺あきらめ悪いんです」

吐息混じりにそう紡いだ言葉に、彼の前では絶対に油断してはいけないと身をもって学びました。

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