ないしょの恋 | ナノ


::好きだということ



「あれ? 緑間、高尾の奴どした? 珍しく一緒じゃねぇんだな」
「高尾なら、親戚の子が倒れて家まで送り届けに行ってます」
「親戚?」

ふとキョロキョロと周りを見回して、高尾が居ないことに気付いた宮地先輩に、そう淡々と説明する。

「…ああ、お前と仲良いあの子か」

以前一度、なまえと一緒に居るところを先輩に見られているので、彼はなまえのことを知っている。
ボールを何やら弄りながら、先輩はなまえのことを思い浮かべている様子だった。

「似てるよなあ、高尾とあの子。なまえっていうんだっけ?」

宮地先輩がそう言ってこちらを見てくる気配がしたが、構わず俺はスリーを打つ。無言は肯定。ボールは何事も無くゴールを潜った。
…そういえば、なまえは高尾と似ていると言われるのを心底嫌がっていた。親戚という関係、血の繋がりをその言葉で痛感するからだろう。まあ、その感情も今日を境にいくらか軽くなると思うが。

「…お前、何かあったのか」
「何がですか」

宮地は眉をひそめて、訝しげな視線を新しいボールを持つ緑間に送った。
…今日の緑間は、何か、変だ。いや、普段からそんな図体をして、おは朝占いという女々しいものを信じ、ラッキーアイテムを持ち歩くという誰もが認める変人だが、そうゆう系統の「変」ではない。
…よく分からないが、何か、どこか、元気がなさげに見える。「心此処にあらず」そんな風な言葉が当てはまった。
事務的にボールを持ち、何回もスリーを打つ緑間。

一寸の狂いもなくボールをゴールに吸い込ませていく様は、まさに機械。彼が天才シューターだということを改めて思い知る。それにしても、だ。いつ見ても、彼のシュートはやはり高い。
床に座り、口をへの字に結ぶ。宮地はつまらなそうに頬杖をついて、秀徳の天才シューターを見つめる。何本かスリーを打った後、緑間が鬱々とした息を吐いた。
やはり、おかしい。

「…宮地先輩、どうも今日は調子が出ないので、練習を休んでも良いですか」
「はあ!? ……はぁ、まあ、今日のお前何か変だし、調子出ないなら無理してやらない方が良いな。大坪には俺から言っとくから、お前早く帰れ」
「有り難うございます」

ゴール付近に転がったボールを拾い、元あった場所に片付ける。足取りはしっかりとしているが、どこか覚束ない。大丈夫かよ、緑間の奴。
一抹の不安感を抱きながら彼の動きを目で追っていると、緑間は体育館から消えて行った。






ぼうっと自分のロッカーの中のバッシュを見つめながら、学ランの釦を留めていく。
先程の宮地先輩の言葉の通り、今日、正確には今日の放課後辺りからの俺は変だ。おかしい。
こんなの俺らしくもない。…理由は、自分で痛い程分かっている。なまえの幸せの為にしたことだ。後悔はしていない、筈。でも、このよく言い表せない虚無感はなんだろうか。

ぽっかりと心に穴が空いたような感覚。本当に空いてはいないのに。手を降ろして、大した意味も無くロッカーの一番奥を凝視して、瞼を閉じる。…なまえは俺の気持ちには気付いていない。

「(高尾は…、アイツは勘が鋭いから、感付いているかもしれないな)」

ふ、と自虐的に笑って口角を上げると、ロッカーを閉じる。
俺は、この気持ちを心の奥深くに押し込める。ガシャンといやに耳に響く、金属のような音がした。

250808[FIN]


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