図書室の奥の、特等席。 | ナノ

俺、主将や宮地先輩、木村先輩、高尾などのメンバーが部活終了後に自主練習をすることは、既に決まり事と化している。
軽口を叩く高尾からパスを受け、俺が淡々とスリーを打つ。ボールはゴールへと吸い込まれていった。それを見てドリブル練習をしていた宮地先輩が、「相っ変わらず無駄にたけぇな」と呆れ気味にそう口にした。
「無駄は余計です」そう返答すると、先輩は肩を竦めてまた自主練習へと戻っていった。暫く各々の自主練習をしていると、「そろそろ切り上げるか」とキャプテンが時計に目を向けて呟き、それがまるで合図かのように俺達は揃ってボールを片付け始めた。
そんなときだ。男しか居ない筈のこの空間に、上品な女の声が響いた。

『大坪くん、ちょっと良いかしら』

凛と響く涼やかなソプラノ。
体育館の入り口へと目を向けると、そこに立つ人影が目に入った。あのミルクティー色は以前目にしたことがある。キャプテンはタオルで汗を拭いながらそれに答え、宮島先輩の居る入り口へと歩いて行った。

「わーお、高嶺の華先輩じゃん」
「…何だ、その失礼な名前は」
「えー? 有名だぜこの呼び名。始めは二年の誰かが言い初めたらしいんだけど、今ではこう言えば生徒会長のことだって誰でも分かるんだってよ」

「まっ、真ちゃんは知らなかったけどな」高尾はそう頭の後ろで両手を組みながら、キャプテンと話す先輩を見つめる。
彼女はキャプテンと一言二言話すと、顔を綻ばせてサイドの髪を耳に掛けた。

「びっじんだよなあ、宮島先輩。真ちゃんもそう思わね?」
「知らん」
「えー?」
「どっこが美人だ。アイツは恐ろしい女だっての」
「宮地サン?」

どこか遠くを見るように、呆れたように入り口を横目で見て、肩に掛けたタオルで汗を拭う宮地先輩。
「二年んとき体育祭で男ごぼう抜きにしたり? ひったくり一人で捕まえたり? …ほんと有り得ねぇっつーの…」最後の辺りは溜め息混じりにそう言って、宮島先輩から目を背けるように離れて行った宮地先輩。

「ああ、そういや宮地サン、宮島先輩と同中で三年間クラス一緒なんだっけ。今年も一緒だって聴いたから、四年間か。スッゲ」

部室に向かって行った宮地先輩の背中を見て、高尾がふと思い出したような口振りでそう呟いた。その言葉により再度宮島先輩の方を見つめると、こちらの視線に気付いたのか、俺の方を見て微かに柔らかく笑った。その表情がまるで小馬鹿にされているように思え、苛立ちを覚えたので、俺は思い切りそっぽを向いてやった。
直後、楽しそうに震えるソプラノが響く。

「宮島? どうした?」
『ふふ…何でもないわよ、大坪くん』

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