図書室の奥の、特等席。 | ナノ

『ねえ、宮地くん』

教室での私の席は、宮地くんの隣。ついこの間の席替えで、窓際のこの席になった。
今年の担任の日直のルール。隣同士の男女で一日ずつ交代制、という面倒なことにより、私と宮地くんは放課後教室に残ることになった。ちなみに去年の担任の日直ルールは、名前の順男女で一日ずつ、だった。

黒板をその長身を活かして消していた宮地くんは、「何だよ」と手の動きを止めて面倒そうにこちらを振り向いた。
実に不機嫌な顔。「こっちは早く日直なんざ終わらせて、とっとと部活行きてぇんだよ」みたいな感じかしら。まあ、構わないのだけれど。

『真太郎くんって、どんな子?』
「ああ? 真太郎?」

宮地くんは一瞬私の言う、「真太郎くん」という人物が分からなかったらしい。でも頭の良い彼はすぐに理解し、「緑間のことか?」と逆に訊ねてきた。
そういえばこの間の学力テスト、確か宮地くん十位以内に入っていたわ、などと考えながら彼の問い掛けに頷いた。

「あー、緑間なー。いくつか挙げるとしたら、変人だろ、おは朝信者だろ、それに語尾が“なのだよ”、シュートが無駄に高い、轢きたくなる、撲殺したくなる、刺したくなる」
『最後の三つは宮地くん限定だと思うのだけど』

「でも、ありがとう」小さく息を吐いて、宮地くんにお礼を言う。
彼とは中学からの付き合いで、中三、高一、高二とクラスが同じだった。それを言うと、彼のことを美形だけど何か近付きにくい、と思っている子によく羨ましがられる。その度に私は吹き出しそうになるのだ。堪えるのが本当に大変だ。

「あの」いつも物騒なことを言っている「あの」宮地くんが、実は重度のアイドル好きだと知っているから。異性でそのことを知っているのは、私ぐらいじゃないかしら。
確か去年。朝早く来すぎて暇だったから、そのとき丁度教室に居た宮地くんに、興味無いだろうなと思いながらもとある女性アイドルグループのことを話したのである。
そのときだ。私の推しメンと宮地くんの推しメンが、同じ子だと判明したのは。
私はたまたまテレビを見て、この子可愛いなと思っていた程度だったので、宮地くんにその子について熱弁されたときには流石に引いた。もう慣れたが。

「日誌、書けたか?」
『…もうちょっと。宮地くん、先部活行って良いよ。これ書いたらあと、施錠だけだから』
「お前だって部活あんだろ。しかも部長」
『副部がしっかりしているから。大丈夫よ』

それでもまだ納得していない様子の彼に、極めつけの一言。「生憎今日は、生徒会の仕事が多くてね。多忙で部活には出られないのよ」と微笑む。
すると眉間の皺をさらに深く刻み込んだ宮地くんは、「うるせぇ轢くぞ。人に自分の仕事任せんの、何か嫌なんだよ、さっさとやれ」と私に命令してから廊下へと出て行った。
おそらく、教室前の窓の鍵閉めだろう。…宮地くんは優しいんだかひねくれてんだか、いまいちよく分からない。

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