図書室の奥の、特等席。 | ナノ

図書室の奥の特等席。
かなり奥張ったところに位置しているから、秀徳高校の広い図書室を普通に歩いていては、なかなか見付けることは出来ない。そこは俺しか知らない場所、の筈だった。

「(女…?)」

日が当たり、良い具合に暖かいその席に女が居た。正確には机に突っ伏していた。上履きの色は見えないが、見た目からしておそらくは上級生。窓から射す日に輝くミルクティー色の珍しい髪の色が印象的だった。仕方がないので、彼女の向かい側の席に音を出さないよう静かに腰を下ろす。彼女は起きない。

本の活字を目で追っていると、ふとある人物の名前が頭をよぎった。三年の宮島先輩。大分前の入学式のときに、生徒会長として壇上で祝辞を述べていた。
彼女も確か、こんなミルクティー色の髪の毛だった。

『一年の、緑間 真太郎くん、だよね』

そう唐突に問われて、本から目を離し向かいへと目を向けると、宮島先輩がいつの間にか起きていて髪と同色の瞳でこちらを見ていた。
少し驚いて数秒間を開けたが、「…そうですが」と答えた。何故、この人は俺の名前を知っているのだろうか。

『ふふ、何で名前を知ってるんだ、みたいな顔だね』
「別に、そんなことは」
『あら、どうかしらね。四月の入学式。貴方、壇上から見ると凄い目立つのよ。髪、綺麗な緑色だし。ああ、貴方と同じバスケ部の宮地くんも目立ってたわ』

「彼も、結構目立つ髪の色してるわよね」と笑う。そんな先輩の言葉に、それでは答えになっていないじゃないかと思っていると、「私、女バスの主将なのよ」という言葉が返ってきた。なるほど、だからか。
するといきなり、何かを思い出したかのように小さく呟いた宮島先輩は椅子を引いて立ち上がる。

『あー、まだ君と話していたいのだけれど、そろそろ仕事しないと怒られるわ…』
「俺は宮島先輩と話すことなんて、何一つないですが」
『まあまあそう言わずに、また話そうよ。じゃあまたね、真太郎くん』

そう言ってひらひらと手を振りながら本棚の影に消えていった宮島先輩から、手元の本へと視線を移すと、さっきまで先輩が寝ていた机上にぽつんと栞が置いてあった。それは、窓から射し込む日に当たって光っていた。まあ、おそらくは先輩のものだろう。
手を伸ばしてそれを取ると、ひんやりと金属の冷たさが肌に伝わった。もう一度先輩が消えていった本棚の辺りを見て、それからまた手上の栞を見た。

…あの人は、もしかしてわざとこれを置き忘れたのではないだろうか。溜め息がこぼれた。

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