いけない恋 | ナノ


::たったひとつの触れる方法



「今日は一段と覇気が無いな。何かあったのか」
『…見ちゃった』
「見た?何をだ」

心配そうに私に声を掛ける真くんの言う通り、今日の私は元気がない。当たり前だ。好きな人がとっても可愛い女子の先輩に、告白されている現場をこの目で、見てしまったのだから。
あのとき程自分の中を流れる血を、憎らしく思ったことはない。和成に告白が出来るあの先輩を、羨ましく思った。確かあの人は、ニ年生。女バスの人だったと思う。

『何で分かんないかなあ…真くんもされたことあんじゃん、何回も』
「…ああ。告白か」
『そ』

「別に気にすることは無いだろう、高尾は断ったんだろう?」真くんは、そう呆れたように息を吐き、私に訊ねてくる。
うん。断ってた。「今はバスケに集中したいから」って。もう望み無いかなあ、って、あはは。違うや。親戚好きになった時点で、…もう望みも何も無いか。馬鹿だなあ。

「それだけじゃないだろう、なまえ」

水分の膜が少し張った目で、真くんを見る。眼鏡越しの意思の強そうな翡翠色が、私を射ぬく。ああ、やっぱ綺麗だな。
「何が?」真くんの前で泣くわけにはいかない。いつもたくさん迷惑を掛けているのに、ここで泣いたらまた、要らぬ心配を掛けてしまう。

「お前のことなら、何でも分かるのだよ」
『っ…はは、やっぱ真くんは凄いねえ。全然敵わないや』

頭にのせられた手の温もりに安心して、笑みが溢れる。真くんにこうされれば、いつも私は泣き止む。

「高尾のことなら、なまえが一番よく知っているだろう。それは俺を凌ぐ。他の奴等をもだ。だから、胸を張れ。諦めるな。思い続けろ」

皆は真くんのことを恐いと言うけれど、彼はただ、感情をあまり出さないだけだと私は思う。こんな優しいことを言ってくれる真くんと反対に、私は最低で最悪だ。
だって、男同士にしか分からないことも、やっぱり存在する。どんなに私が和成のことを知っていたとしても、やはり今一番彼の近くに居る真くんには、敵わないのだ。
そんなことを考えてしまう私。自分でもこんな自分、嫌になる。大嫌いだ。

『…ありがとう。真太郎』

何年振りだろうな、真太郎のことちゃんと名前で呼ぶの。
真太郎が居るから、私は何度躓いても、起き上がって前を向ける。「…ああ」と彼が私の言葉に返してくれた直後。私の頬を滴が伝った。ああ、泣いちゃったよ。
…そのときの真くんの声が、どこか苦しげだったのを、私は知らない。

250702

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