ひとつの恋 | ナノ



::好きが好きになったとき




五限目がさっき終了し、今は六限目に突入中。涼太くんが離してくれないので、六限目もサボることにしました。
ついさっき、その涼太くんから、「なまえ先輩は俺より年上なんスから、黄瀬さんじゃなくて好きに呼んで貰って良いし、別に敬語じゃなくても良いんスよ?」という有難いお言葉を頂戴したが、今のが一番良いと言って、丁重にお断りした。
変なところで律儀だ、彼は。

ところが、だ。涼太くんが、「俺が、なまえさんに名前で呼んで欲しいんスけど、やっぱダメ、っスか…?」と首を傾げて訊ねてきたのだ。これは折れるしかないだろう。
必死に冷静を装って了承の言葉を口にしたら、「じゃあ、敬語もやめて下さいね」と満面の笑みで言われたものだから、これにも了承してしまった。やられた。ちくしょう。このイケメンめ。

『…どうでも良いけどさ、涼太くん、流石にもう離れてくれない?』
「嫌っスよ。なまえさんが言ったんじゃないスか、好きなら行動で示せって。俺はただ、その通りにしてるだけっス。それに、なまえさん抱き心地良いんスもん。離れたくない」

そんなことを恥ずかしげもなく言い、後ろから私を抱き締めて、肩に顔を埋める涼太くん。そんな彼に、内心壁に何回も頭を打ち付けたい気持ちに居た私。
…例え涼太くん相手でも、年下相手に焦っていると知られるのは屈辱だ。必死に顔の火照りを治めようと努力するも、近くで聞こえたクスリと笑う声に、火照りがもっと酷くなった。

『そ、そうだ! 涼太くん! 私、男バスのマネージャーになりたいの!』
「へ、マネー、ジャー? 」
『そ、そう! マネージャーになれば、涼太くんを見れる時間が多くなるでしょ? 私、涼太くんがバスケしてるとこ見たいな。カッコいいんだろうなあ。…な、なーんて』

私がマネージャーになりたいと言ったら、全く予想していなかったことだったのか、涼太くんの腕の力が少し抜けた。今だと思って身体に力を入れると、「なまえさん…!!」と名前を呼ばれて、さっきと比べものにならない程きつく抱き締められた。ちょ、し、死ぬ。…って、あ。

『っちょ、待って待って涼太くん、ちょっとこっち向いて』
「なまえ、さん?」
『そ、そんな顔しないで涼太くん。別に嫌だとかそうゆうのじゃないから。ただ、涼太くんは行動で示してくれたけど、私は自分で涼太くんに言ったクセに、示してないから…さ、』

そう言って、私は羞恥心を殺してぎゅーっと涼太くんに思いっきり抱き付いた。涼太くんからはよく分からないけど、凄く安心する良い匂いがした。
今まで好きという言葉、感情が嫌いだったけど、今は好きだな。頭上から視線を感じるけど、恥ずかし過ぎて見れない。名前を呼ばれて仕方なく瞼を開くと同時に、するりと両脇に手を入れられて、浮遊感。男の子って、こんなに簡単に人を持ち上げちゃうんだ。

私がびっくりして色気も何もない声を上げると、既に、涼太くんの両腿に跨がる様な体位で座らされていた。いつもならスカートの心配をするところだけど、今はそんなの気にしてられない。
腰に私よりもずっと逞しい腕が回されて、身体が涼太くんと密着する。顎を持ち上げられて、細められた瞳と視線がかち合うと、もう逃げられないと流石の私でも悟った。

唇が触れそうな程の至近距離で、「好きだ」と言われて、私が答える間もなく、唇を彼のそれで塞がれた。良かった、ちゃんと涼太くんに気持ち、伝わった。
それとほぼ同時に鳴った六限目、今日最後の授業の終了を知らせる機械的なチャイムの音が、やけに遠くで聞こえた。

250603[FIN]





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