ひとつの恋 | ナノ



::以外と貴方のすぐそばに




何のことはない平日のお昼休み。私は図書室で借りた本を手に、人気のない廊下を歩いていた。図書室があるのは別館だから、まあ無理もない。
外から騒がしい騒音を耳にして、ふと窓越しに中庭を見た。私なんかよりもずっと可愛い女の子がたくさん。その真ん中には、目立つ黄色の頭。

胸のチクリとした痛みを感じながら、ああ、黄瀬さんだ、と思った。そのときだ。困ったような笑みを女の子達に向けていた彼が、私の方を見た。視線が、合う。

『(バレてない、よね?)』

驚いて、すぐさまその場にしゃがんだ。多分、大丈夫。これと似たようなことは何回もあった。誤魔化せた、はず。
早鐘を打つ心臓を静めながら、窓からそうっと外を見る。あれ、居ない。どこ行ったんだろう。
中庭には、きょろきょろとしながら黄瀬さんの名前を呼ぶ女の子達だけ。黄瀬さんは、一体どこに。

「なまえさん!!」

私が居る廊下に、黄瀬さんの声が響き渡る。驚きのあまり、尻餅をついた。ヤバい。バレた。…でも、いや、まだ誤魔化せる。
頭をフル回転させて、歩み寄ってくる黄瀬さんに、どんな言葉を発すれば誤魔化せるかを考える。

なんとか口だけは開いたそのとき、ひょいと黄瀬さんに眼鏡を取られた。焦り過ぎて、私から誤魔化しの言葉は出ない。ぼんやりとしていて、はっきりしていない視界では、黄瀬さんが今どんな表情で私を見ているのか全く分からない。かろうじて耳に入ってきた、「やっぱり、」という黄瀬さんの呟きに、ああ、バレちゃった、と思った。






今までの少ない人生で、授業をサボるなんて初めての経験だった。内心びくびくしてた。うわー、サボっちゃったよ私。
友達に誤魔化しといてってメールしたから、先生には怒られないと思うけど。仕方無いと開き直りながら、空き教室にある椅子に適当に座る。黄瀬さんも、私の隣にある椅子に腰を下ろした。

『よくあんなところから見て、私だと分かりましたね、黄瀬さん』
「…早川先輩にこの前、ふと好奇心で訊いたんス。なまえ…先輩、数学の教科書が俺のと似てるって言ったとき、焦ってたから。
そしたら、同性同名の人が同じクラスに居るって、早川先輩から聴いて…」

…だからか。まあ、今までバレなかったのが奇跡だもんね。それに、黄瀬さん以外にはバレてないし、問題ない。
柔らかくカーテンが揺れ、開け放たれた窓からの風が心地良い。風にのって、聞き覚えのある声が聞こえてくる。あ、私のクラス、五限目体育だったんだ。サボって正解だった。

「あの、なまえ先輩」
『何ですか?』
「…えっと、俺、まだ、…告白の返事、聴いてないんス…けど…」
『え、あれ、冗談とかドッキリとかそういう類いのものじゃなかったんですか? あ、罰ゲームだったってのもありますか』

そう首を傾げて言うと、「じょ…っ!?」とか言って、ショックを受けたような黄瀬さん。うん、そんな表情もカッコいい。そんな彼に、「冗談です。私も好きですよ、黄瀬さんのこと。あ、勿論異性として」と微笑んだ。

『でも私、好きという言葉は嫌いなんです。だって、言葉という不確かなものより、行動で示した方が、確証を持てるし目に見えるじゃないですか』
「えっと、要するに…」
『はい。行動で示して下さい、黄瀬さん。私も示しますから』

にっこり。以前の黄瀬さんの様に、効果音付きで微笑んだ私。それを見た黄瀬さんは、一瞬目を見開いて、そのあと凄く嬉しそうに笑った。ああ、カッコいい。
そして黄瀬さんは、私を優しく引き寄せた。

250524





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