ひとつの恋 | ナノ



::気になる、気がある?




「あっ」
『あ』
「こんにちは!」
『…こんにちは』

夏の新服の撮影から数週間後、とある清涼飲料水の広告ポスター撮影の仕事依頼が来た。他の事務所のモデルと二人での撮影、しかも相手は女、ということだったから、初めは渋った。
でも、相手の名前を出されて俺はコロッと態度を変えてすぐ了承した。

「また一緒の撮影っスね! なまえさん!」
『何でそんなに嬉しそうなんですか、黄瀬さん。気味悪いです。正直気持ち悪い』

そう、相手のモデルはなまえさんのことだった。
何故なまえさんだとすんなり了承したのか。実を言うと、俺はこの間の撮影で彼女のことを気に入った。どんなところをというと、「気味悪いです」「正直気持ち悪い」などと、本心を正直に口にしてくれるところだ。口にしなくても、彼女はすぐ顔に出る。嘘を付くのが苦手な質なのだ。

「あれ? その教科書…」
『ああ、もうすぐ学力テストがあるので。テスト勉強です』
「へー、偉いっスね。てか、なまえさんの学校もですか、俺のところも確か、来週辺りにあったよーな。…っわ、なまえさん高二なんスか!?」

なまえさんが、机に数学の教科書を立てて読んでいた。表紙には、高校数学二年と書いてある。
…あれ、この教科書俺の持ってる数学の教科書と似てる。てか△△書籍って、俺のと同じじゃん。二年になったらこんなん貰うんだ。そんなことをなまえさんに言ったら、「お、同じ都内の高校なんですから、当たり前でしょう」と返答が返ってきた。

…顔に出てる、焦ってるななまえさん。何で焦ってんだろう。もしかして、海常の生徒だったりして。まあ、ないか。こんな面白い人先輩に居るんなら、とっくのとうに知ってる。てか、あれ、俺、何でこんなになまえさんのこと気になってんだろう。…まあ、良いか。

「へー、なまえさん二年四組なんスか」
『…黄瀬さん、いい加減勉強に集中させて貰えませんか』






「気がある? 俺が?」
《ええ、多分》

そんな、まさか、俺が。「だって、気になるんでしょう?その人のこと。しかも、もっと知りたいと思っている。多分、その人のこと好きなんですよ、黄瀬くん」という携帯越しの黒子っちの声に、「そう、かもしれないっス、」と呟いて頷く。

「で、でも! 俺、女の子に好きになられたことなら何十回もあるけど、俺から女の子を好きになるのは初めてなんスよ!」
《…嫌味ですか。切りますよ》
「い、嫌味じゃなくて真面目にっスよ黒子っち! 切らないで!」

…初めてだった。こんな話男友達に話すのも、誰かを好きになるのも。うわ、なんだコレ、何か凄い恥ずかしい。絶対俺、今鏡見たら顔だけじゃなくて、耳まで真っ赤だよ。

《黄瀬くん初恋じゃないですかー、ヨカッタデスネー》
「黒子っち棒読み…!」

黒子っちの感情も何も微塵に感じられない言葉を聴いて、若干ショックを受けた。
暫く無言が続いて、おずおずと俺から、「でも、まだその人と会って数週間なんスよ?いくらなんでも…」と切り出した。

すると、黒子っちは、「時間なんて関係無いと思いますよ。問題なのも大事なのも、気持ちです」と、それっぽいことを真面目に言ってくれた。
その黒子っちの言葉に心打たれ、「あの黒子っちから、真面目に恋のアドバイスをされる日が来るなんて…!」と感動のあまり呟くと、ブツッと通話が途切れた。
黒子っち酷い…。

250519





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