::はじめましての恋
丁度去年の冬頃、お気に入りのファッション雑誌で読者モデルを募集しているとのことで、勇気を振り絞って応募してみた。
昔から、芸能界の華やかさに憧れていたのだ。そして今、私は様々な努力のかいあってか、モデルになることが出来た。
マネージャーによると、今日は外での撮影らしい。そして、本当かどうかイマイチ分からないが、あの黄瀬涼太さんと共にシャッターに収まるらしい。
彼ならよく知っている。というか、この業界で知らない者はいないというぐらいの有名人だ。
私は年齢だとかどこの学校の生徒だとか、色々なことを隠して芸能活動を行っているから、彼は知らないのだろうが、黄瀬さんは私の後輩に当たる。
着替えとメイクをやって貰い、キャンピングカーみたいな車から出ると、日射しが肌にどんどん刺さっていく。
『(日焼け止め、ちゃんと塗ったけど大丈夫かな…)』
年齢的には私が上だが、彼は私の年齢など知らないし、芸能界では私の方が若輩者だ。
決まり事と化した挨拶をしに、私はパラソルの下に居る黄瀬さんの元へとやってきた。
『××事務所所属のみょうじなまえといいます。今回の撮影、どうぞ宜しくお願いします、黄瀬さん』
「あっ、はいっ! こちらこそ宜しくお願いしますみょうじさん! △△事務所所属の黄瀬涼太っス!」
私が目の前に現れた途端、目を見開いてガタッと勢い良く腰掛けていた椅子から立ち上がった黄瀬さん。
何でそんなにキラキラした目で見てくるのだろうか。私が海常生とはバレていない筈だが。というか、バレる筈がない。私が彼を避けたり、変装したりしているのだから。
ていうか、
『身長たっか…』
「え?」
『あ』
いかん、本音が漏れてしまった。あんまりにも私と彼の身長が違い過ぎるのだもの。
てか、ほんとにデカい。首痛い。何食ったらこうなるんだ。この前まで中坊だったヤツの身長かよ。
私は何もかもが平均、並みである。身長も高校二年生、女子の平均身長ど真ん中だ。…ってかあれ、何か笑いだしたぞこの人。
『一応お訊きしますが、何で笑ってるんでしょう、黄瀬さん』
「っ、すいませ…っ、ははっ、気付いてるか分かんないっスけど、全部口から出てますよ、みょうじさん」
マジか。流石の私でもそれは焦る。例え尊敬も何もしていない先輩であってもだ、敬うフリをするのが芸能界っていうものだ。ただ華やかなだけではない。イジメも勿論ある。
何か癪に障るが、表向きだけでも謝っておこう。私はまだこの世界に居たい。
「ああ、別に謝らなくて良いっスよ。むしろ、本音を包み隠さず言ってくれて嬉しいっス」
『え』
「俺の周りには、俺に媚売ろうと嘘のことしか言わない人間ばっかりっスから。みょうじさんは違ったけど」
大人気売れっ子モデルにも、悩みの一つや二つはあるということか。
ていうか、この人何で嘘のことしか言わないって分かるんだろう。媚売ろうと必死な人がわざわざ、「これは嘘ですぅ」なんて言う訳ないだろうに。
今度は口に出さない様に出来た、と心の中でヨシッとか思っていると、「長い間この世界に居ると、顔見るだけでその人の思ってることが大体分かる様になるもんスよ」と笑顔で心を詠まれた。
プライバシーの侵害だ。何か恥ずかしい。
『…変な人ですね』
「ありがとうございます。なまえさんも大概だと思いますよ」
にっこり、効果音が付いた。
…てかおお、さりげなく名字にさん付けから名前にさん付けに変えたよこの人。さりげな過ぎてスルーしそうになった。
ていうか私よりも断然黄瀬さんの方が変人だ。これだけは言える。でも、面白い人だな、興味が湧いた。心臓が異常に速くなるのなんて、いつ振りのことだろうか。
250518